「コロナとか俺たちみたいなこどおじは最強ですよね。外出る必要ないし」
兄弟ともにこどおじ=子供部屋おじさんという言葉は知っていて、二人共に自認している。兄者も弟者もこの取材時点では無職だが、先の老人の話とは少し違い、去年までは市内でアルバイトをしていたそうだ。老人はフリーターを無職としてしまう人が多いからか彼らは働かないなどと私に言っていたが、実際は去年の年末まで仕事に就いていた。
「俺は清掃の仕事してたんだけど、パートのおばちゃんたちは嫌な人ばっかだし社員はウザい。年下で何もわかってないくせに。だから年末で辞めたんだ。弟も介護の仕事をしてたけど同時に辞めた」
兄者の言葉に弟者がにやりつぶやく。
「介護なんて、あんなの仕事じゃない。うんこ取り」
兄弟ともに裕福な家の子、不便な立地だがこの辺りは高級住宅地だ。
「しばらく休んでから職探そうと思ってたのにコロナでしょ? ついてない。まあ、別にすぐ働かなくても困らないし、コロナってるといろいろ職場もめんどくさいからちょうどよかったけど。そう考えるしか無いね」
◆「まともな大学を卒業しても、見合った就職先がなかった」
兄者はトークも軽快でよくしゃべる。老人から聞かされたイメージとは真逆の陽キャ、社交的な人だ。世間話にもきっちり対応できる。聞けば兄者も弟者も神奈川県内の有名私立大学を卒業している。どちらも新卒で就職せずにフリーターとなったそうだが、なるほど、会話の語彙が偏らずしっかりしているはずだ。なぜ就職しなかったのか?
「就職氷河期って全然仕事がなかったわけじゃないんですよね。俺みたいにまともな大学出てれば新卒枠はありました。でもそれに見合った就職先かっていうと話が違ってくる」
就職先はあったが、どれも小売、外食、サラ金、よくて自動車のディーラーが関の山だったと言う。確かに兄者のころはまだしも、弟者の時代は氷河期真っ只中。有名私立大学とはいってもスポーツで知られるマンモス私大で高偏差値というわけではない。苦戦は必至だったろう。実際、兄者は最初から新卒での就職を放棄、弟者は受けた企業をことごとく落ちたため、バイト先だったうどんチェーンで卒業後も働いたという。
その後いろいろなバイトを経て介護の仕事についた。特別養護老人ホームの夜勤をしていたとのことで、スマホとにらめっこの見かけによらず仕事は出来るのだろうし、真面目なのだろう。兄者も「こいつが仲良くするかは人による」と言っていた。私も打ち解けたのは先のゲーム話からで、そっちの話しかしてくれない。自分自身のことは頑なに明かさず、代わりにほとんど兄者がインタビューに対応してくれた。
「地元がいいんだよね、知らないとこはいろいろ面倒だし」