試合当日、解せなかったのは、4番を任せていた佐々木を打者としても起用しなかったことだ。
「疲れている佐々木よりも、野手のほうが振れるだろうし、(勝利には)可能性があるのではないか。そう判断しました」
しかし、私には、甲子園出場と、佐々木の将来を天秤にかけ、後者を選択したように映った。花巻東戦では、先発に、4番手に目されていた3年生・柴田貴広を起用し、大量失点するや2年生左腕を投入した。端から勝負を諦めているかのような選手起用だった。私は、責任を背負い込んだふたりが試合後に泣き崩れていた姿が忘れられない。
「もちろん、勝負を捨てたわけではありません。花巻東の強力打線には、右サイドで変則の柴田のほうが、初登板で疲れもないし、少しでも抑えられるのではないかという期待がありました」
試合前、國保は佐々木に「先発では起用しない」とは伝えていたが、「リリーフとしても野手としても起用しない」とは伝えていない。それは他の選手に対しても同じ。すべてを独断で決めた。
「選手が納得しているのか、ということですよね? 納得している者もいれば、いない者もいる。個々人で違うのかなと思います。事前に、本人に相談したら、『投げたいです』と言うのは明らかだった。野手に伝えたら、『僕らが朗希をサポートするので、投げさせてやってください』と言うに決まっています。一言でも彼らに相談したら、(佐々木の登板を)止められなくなると思いました。もし疲労困憊の状況でマウンドに上がったら、力んで投げて、肩、ヒジ、腰、股関節、膝……想像でしかありませんが、将来に残るようなケガのリスクは高かったんじゃないかなと思います」
だからこそ、すべてをひとりで背負い込み、大きな誤解も生んだ。