急に振られた太田は早口で「はい……二人がセックスした結果で」と笑って俯き、山田の語りに耳を傾ける。物語は太田の少年時代から日大中退を決意する場面に差し掛かる。
山田「──さあ、ついに決断の時が来た! 『俺はチャップリンに憧れ、萩本欽一、ビートたけしを目指したい。大学は辞めよう、ピカソが心にいるんだ! 親父、俺を舞台に立たせてくれぇ!』。すると、父・三郎は『馬鹿野郎!』と一喝! ああ、なぜだァ!」
太田「あのう……ごめんなさい、俺、そんなにアツくないんで(笑)。親父もそうじゃないしね。山田さん、気持ち入り過ぎ」
山田「あー、違いました? そうかあ、僕ね、太田さんに同化しすぎて、家で何時間も練習して毎回泣いてしまうんですよ」
太田「いや、俺の人生で泣くとこ少ないから。本人が言うんで、それ間違いない(笑)」
かたりの世界は、山田の熱すぎる浪花節芸と太田の冷静な注釈の応酬で展開する。
山田「仕事を失った光を支える光代さん。生活費のため、彼女は質屋に行く時もいつも笑顔で支え続けたのです!」
太田「あの、カミさん、必死でしたし、笑顔じゃなかったんですけど(笑)」
山田「はァー、そうだったんですねえ、でも僕の中の光代さんは常に太陽のように、燦々とした笑顔を浮かべているんです!」
ここは日本一絡みづらい芸人・山田雅人の真骨頂、己の太田光伝を演りきる。ブレーキなしのスーパーカーの異名もある太田は山田決死の憑依芸を自ら楽しみ、身を委ね続けた一時間だった。
その後の第二部は、この公演の仕掛け人である高田文夫と、太田光の同期である松村邦洋が登壇。冒頭いきなり「いやー、凄かったね。もう、すっかり山田くんが太田の人生送っちゃってさ!」と、高田が72歳とは思えぬフルパワーで語りだした。それから高田、太田、松村が先の読めないクロストークを繰り広げ、話題はいつしか太田、松村と同じく同期の芸人、春一番(2014年に肝硬変で急逝)に移った。