風営法上、パチンコは4号、ゲームセンターは5号。映画館は風営法ではなく興行場法上の営業となる。共通するのは三密とされ、そのほとんどが第1次緊急事態宣言で休業したこと。しかし、これらの場所でクラスターは発生していなかった。
「そうです。クラスターは発生してなかった。事実ですね。その後はホールやゲーセンは通常営業、映画館はずっと『鬼滅の刃』ですが、それでも発生しなかった」
そう、緊急事態宣言終了後、通常営業に戻ってもホールやゲームセンターからクラスターは発生しなかった。ましてや、2621万人(!)もの動員を記録した「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(興行通信社1月12日発表)を上映した全国すべての映画館から発生しなかった。どれも昨年、「三密」だとして休業させられた業種である。
「それは仕方ない、コロナがなんなのかわかんないんだから。でも休業要請に従っても”潰せ”という意見は怖かった。自分の気に入らないものや自分に関係ないことには残酷になれるんです」
叩きやすいところにはとことん来る
筆者は当時「砂漠のインド人は魚を食べないことを誓う」というゲーテの言葉を引用した。古いネットスラングなら「俺は嫌な思いしてないから」だろうか。平時ならそれでいいことも、非常時にはやがて自分に返ってくるというのに。
「そのとおりです。電車や食事を叩きにくいのは当然で、仕事をしていれば電車には乗るし昼飯くらいは食いに行く。満員電車に乗ることも、付き合いや仕事上の都合でランチや接待もあるでしょう。人間はそんなもんです」
西口さん、いや西口は昔から達観しているが、芯は熱い。淡々とした口調とはまるで違う眼光のするどさは、オタクバッシングの時代に見た、あの西口だ。1989年、幼女連続誘拐殺人事件で宮崎勤が逮捕され、あの部屋が映し出された瞬間から始まったバッシングだ。
当時の雑誌に踊った”ロリコン5万人 戦慄の実態 あなたの娘は大丈夫か?””美少年に走る「女宮崎」はキミのクラスにも1人いる!”という見出し。男女問わず、アニメ好きやゲーム好き、とくに「キャラ萌え」「推しキャラ」系のオタクはクラスの最低カーストに無条件転落となった。この同調圧力と魔女狩りは当時の中高生オタクでないと実感しづらいかもしれない。そんな時代のオタクを笑ったのと同種の連中が、パチンコなんかいらないと攻撃している、エンタメなんか不要不急と冷笑した連中が、いまでは罹患者を「バイキン」呼ばわりで攻撃している。エッセンシャルワーカーを冷笑している。誰がいつコロナのせいで「バイキン」呼ばわりされるかわからない。そんな現場の証言がたびたび報じられている。一緒にするなと笑うかもしれないが本質は違わない。ユダヤ人が悪いというナチのデマにまんまとハマってクリスタル・ナハト(ナチスドイツ政権下のユダヤ人街襲撃事件)を実行したかつてのドイツ国民は、「俺はユダヤ人じゃないから」と一緒にユダヤ人を攻撃し、あるいは見て見ぬ振りで冷笑した。結果は現代人の知る通り。西口さんの怒りの本質はそこだ。
「世の中、叩きやすいとこにはとことん来るってわけです」