出演映画『ヤクザと家族 The Family』は1月29日(金)全国公開!(C)『ヤクザと家族 The Family』製作委員会。配給/スターサンズ/KADOKAWA

出演映画『ヤクザと家族 The Family』は1月29日(金)全国公開!(C)『ヤクザと家族 The Family』製作委員会。配給/スターサンズ/KADOKAWA

 二〇〇六年の大河ドラマ『功名が辻』(NHK)では、織田信長役で出演した。穏やかな雰囲気が強い作品の中で一人、不穏な空気を放ち続けていた。

「あれは凄く楽しかったです。僕はエキセントリックな信長をやりたかった。でも、司馬遼太郎さんの原作だとそうではないんですよね。僕は津本陽さんの『下天は夢か』の信長のほうが好きだったんです。青筋立てていて。それで、そっちに合わせて台詞を変えちゃったんですよね。

 衣装部さんも美術さんも僕の信長を理解してくれました。強さが出ると思って赤と黒と白だけで衣装を作るように頼んだら、そう作ってくれました。

 比叡山を焼き討ちする場面もそうです。『叡山を攻めん』と信長が家臣たちを前に言うシーンでした。

 でも、信長は彼らに向かっては言わないと思った。どこか遠くを見つめながら、ぽつりと『叡山を攻めん』と独り言のように言うはずだと。それを聞き逃すような奴は打ち首にする男です。すると、家臣はみんな『えっ!』となる。

 そのためには静寂が欲しい。静寂の中でいきなり言うから、『え!』という驚きと恐ろしさが際立つ。静寂を表現するのは音です。それで最初は扇子をカチカチと開けたり閉めたりして、最後にパシーンとエコーを効かせる。で、『叡山を攻めん』。

 そこに光秀が『それはなりませぬ』と言うので、立ち上がってお膳を蹴る。『お膳を蹴りたい』と美術部に頼んだら、蹴ることができるものを用意してくれました」

【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。

撮影/五十嵐美弥

※週刊ポスト2021年2月5日号

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