永井:柳生十兵衛は、三代将軍家光の剣術の師匠ですが、15歳から小姓になって、20歳の時に突然、江戸城から逃げちゃうんです。それから10年くらい、十兵衛の消息は途絶えます。ここまでは史実だけど、この間に何があったのか、史料を調べてもわからない。消えていた間は「隠密」をしていたんじゃないか、とかいろんな推測があるんですけれども……。
園:作家としての想像力がふくらむところですね。
永井:そうそう。そこで僕は、女十兵衛が家光に襲われて、十兵衛は家光を倒して逃げていた……という設定にして描いてみたんです。家光は恥をかかされた怒りが高まりますが、とはいえ、手を出そうとしたことを知られてはいけない、という思いが交錯します。家光は徳川忠長(弟)と争って将軍になっていますから、もともと地位が危うい人で、城下に弱みを見せられない。だから、口封じのために暗殺者を送り、十兵衛は追っ手から逃げながら旅をする――というストーリー展開にしました。
園:いやあ、面白そうです。
永井:我ながら、説得力のある設定を作れたな、と思っています。
漫画と映画の「表現方法」の違い
園:永井先生のお話を伺っていて、やっぱり漫画は羨ましいと思います。永井先生が登場人物に『今回はぜんぶ脱いでもらうぞ!』といえば、『わかりました』と脱いでくれますよね。
永井:はははは、そうですねぇ。
園:僕の仕事はそうはいかないからなあ。
永井:生身の俳優さんみたいに抵抗しませんからね。
園:わかっているんだけれども。当たり前なんだけど、漫画はすごい自由だなあと一時期考え込んじゃいましたよ。(再び、手元の原稿を見ながら)永井先生、十兵衛はいきなり服を脱ぎ始めますが、これは……?