「あそこはうるさいし臭かったのよ、文句言えないしよかったですよ」
庭先で近隣の方に話を伺う。坂を登って下ってやっと話をしてくれる人を見つけた。それでも「文句言えない」という言葉が引っかかったので「どうしてですか」と尋ねると苦笑いで「いやあ……ね」と独り言を残して家に入ってしまった。やはりみな口は重い。実際は悪臭や騒音などの苦情から今回の摘発に繋がったはずなのに、いざ聞くとそうした文句は聞かれない。迷惑な施設さえ消えてくれれば地域の和が優先、ということか。
アニマル桃太郎の事務所とされる2階建てのプレハブ小屋に改めて戻る。誰もいないようだ。通りの方から私をじっと見る高齢女性がいたが、目が合うと踵を返した。後ろから「お話いいですか」と声をかけるが答えることなく右の小道へ。それにしても難しい。
儲かるからと暴走。追い詰められていた
「待遇は悪くなかったと思います。この辺はろくな仕事がないのもありますが」
完全匿名、年齢性別も明かさないという形でかつて手伝ったという元スタッフに話を聞くことができた。松本市内、筆者のホテル近くの居酒屋に入る。礼儀正しい方だった。
「私のころはそこまでではなかった。急に増えたのは儲かるから、もっとよこせと引き合いがあったからだと思います」
昨今のコロナ禍の巣ごもり需要で生体価格は高騰、ペットバブルに陥った。
「この辺では力のある家の方々ですから、いまも表立って悪く言う人はいないと思います」
地縁の強い土地だけにこうした事件が見過ごされてきたということか。松本に限らず地方には大なり小なりこうした問題がある。何であれ人間からすれば雇用は雇用、なのだ。
「田舎は仕事がないし安いです。動物と関われたらとか、そんな感じで働いていただけで、従業員のみなさんは悪い人ではないです」
元スタッフが手伝っていたとする時期の長野県の最低時給は849円、今年の10月1日から877円に上がった(特定最低賃金は除く)が、それでも安い。アニマル桃太郎は人にもよるのだろうが悪くない待遇だったという。それはわかるが、警察の調べで明らかになったとされる、獣医師免許のない社長自ら帝王切開をしたりの行為はあったのか。