佐々木が素晴らしいのは足を高く上げるフォームだと村田氏は言う。
「上半身の力を抜くことができれば足を上げた時に壁ができる。その壁を同じ位置に作るのが難しいのよ。スライダーを投げようとしたら腕が下がるし、下半身が弱ければ左足が開いて腕だけで投げてしまう。勝ち星を挙げているピッチャーはシーズンを通して同じフォームで投げている。200勝するような投手は長く同じフォームで投げている。それでもだんだん足が上がらなくなり、肘が下がる。それで体が早く開くようになり、勝てなくなって引退するわけですよ」
「サンデー兆治」の後継者としての「サンデー朗希」についてはこう語る。
「オレは肘のケガをしてから1週間に1度の登板になっただけで、その時は36歳だったんだよ。若い頃は中3日で完投して、翌日にリリーフだからね。これは過去のこととしても、佐々木はローテーションを1年間守り、結果を残すために体のケアをすること。ファンのため、チームのためではなく、今は自分のためにやる。そうすればおのずとエースとして頼られる存在になると思う。結果的にファンが喜ぶわけですよ。完全試合はすごい記録だと思うが、勝負はこれから。カネさんのように、マウンドに立つだけで相手に勝てないと思わせるようなピッチャーになってもらいたいね」
カネやんは1試合16奪三振、7者連続三振が最高だが、「3者連続3球三振」という驚異的な記録も持つ。佐々木は400勝、4490奪三振の大記録を追いかけていくことになる。
生前のカネやんは『週刊ポスト』のインタビューで、体づくりを優先して高校時代にあまり登板していなかった佐々木について、「ケガを恐れてはいけない」「ケガをして学ぶことも多い」と苦言を呈していたが、一方で「懐の深い投球フォーム」をベタ褒めしていた(2019年8月16・23日号)。カネやんは今後の課題として「割りばしの(ように細い)体の改善」を挙げていたが、佐々木は完全試合という結果を示してそれも乗り越えた。新たな大投手の伝説がいよいよ幕を開けた。