主要穀物(大豆、小麦、トウモロコシ)の90%、主要エネルギー資源(石油、石炭、天然ガス)および鉱物資源(銅、亜鉛、ニッケル、ベースメタル、レアメタル)のほぼ100%を輸入に頼る日本、食料自給率は生産額ベースで67%、カロリーベースで37%(ともに2020年度)、飼料自給率に至っては25%と実のところ、江戸時代にでも戻らなければ日本単独で生きていけないほどに「他人様に売ってもらう」「他人様に食べさせていただく」国になってしまっている。すべては食料安保を蔑ろにしてきた政府の責任だが、今回の緊急対策に小麦をピンポイントに加えたことは、まさに政府の危機感の現れだが、彼は納得いかないと語る。
「輸入小麦を米粉、国産小麦への切り替えなんて緊急でできることではありません。何十年かかるかわからない。国内自給率を上げることは大賛成ですが、そういうことじゃないでしょう、政府は9月まで(急騰前の)価格を据え置くと言ってますが、7月の参院選が過ぎたら市場価格を反映するでしょう。小麦は半年ごとの価格改定、どのみち9月には改定なのですから」
まったくその通りで「そういうことじゃない」。緊急に対策しなければならない物価高に対して長期的なビジョンを語るのも変な話だ。現時点で小麦の安定した品質で需要を満たすほどの国内生産は厳しい。米粉に至っては個々人が健康志向で少量使うならともかく、産業として米粉転換などいつの話になるのやら。可能性や技術革新を否定しているのではなく、緊急対策だからこその話をしている。
「やはり悪いのは円安なんです。円安が日本を追い詰めているんです。何もかも国外から買わなければいけない国で、売るにも以前ほど魅力のない国になって、市場で日本が買い負けるのを見続けるのってそりゃ怖いですよ」
今回の緊急対策、筆者も「やばい」と思う。安易な政府批判は避けたいが、この事態にこれって、ちょっとなあ……としか言いようがない。ガソリンの補助金を25円から35円に上げる前にトリガー条項の発動と重複課税の見直しだろう。低所得の子育て世帯に5万円配るのもわけがわからない。生活困窮者支援と説明するが生活困窮者の中でなぜピンポイントに「低所得」「子育て世帯」だけ5万円なのか、これに小麦の安定供給対策を加えておよそ6兆2000億円の血税をぶっ込むという。
「それで緊急対策があれですからね、ほんとやばいと思います」
国民生活を守り抜く、と岸田首相は説明したが、円は20年ぶりに1ドル130円台をつけた。125円の「黒田ライン」とはなんだったのか。もうすぐ6月の給与明細(自営なら税額通知書)で増税ぶりを目の当たりにすることだろう。物価は上がり、税金は上がり、円は下がる。今回の緊急対策は「高齢者に5000円プレゼント」に代わる、低所得子育て世帯5万円のばらまきばかりが注目されるが、小麦の高騰対策もまた、ガソリンと同様にその場しのぎの「やばい」代物である。そもそも貧しい子持ちや小麦、ガソリンだけの話ではないはずなのに。
「円安容認だけでもなんとかして欲しいんですけど。そのほうがよほど緊急対策だと思います。本当に何がしたいんでしょう」
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。