『薔薇村へようこそ』の「CASE1(第1話)」は、移住物件を探しに一人で薔薇村を訪れた50才の西山慶一が主人公だ。企業戦士で、家庭を顧みることなく妻子に出て行かれた西山だが、マッチングアプリで20才以上年の離れたシングルマザーの万里凛と出会い、一緒に暮らし始める。会社を辞め、万里凛の4才の娘綺星と3人で移住しようと計画したところで思いがけず万里凛の過去が明らかになり、彼女は娘を連れて姿を消す。
「CASE2」の貴島英子は、翻訳家で58才。商社マンの夫は海外に単身赴任中だが、女癖が悪く、定年を機に離婚して、薔薇村へ移住しようと考えている。
「私だけが不幸だ」ってみんな思っている
描かれるのはどちらも、ほころびの目立つ、完璧ではない家族の姿だ。今回の作品で、柴門さんは、問題含みの家族を描こうと決めていたのだろうか。
「そうですね。というより、問題のない家族はないと思っています。私の周囲を見てもそうで、夫婦仲がよくても、そこにいたるまでにすごいドラマや葛藤があったり、子どものことで問題を抱えていたりしますから。
私、8年前から犬を飼っていて、近所の公園を散歩させているんですけど、犬の散歩でいろんな人と知り合って。なんとなく親しくなり、ちょこちょこ話をするようになりました。みなさんのお話を聞くだけでも、『いや、人生ってすごいな』と思いますよ」
「CASE2」に、「死んだ息子だけはどうしても諦めきれない」というせりふが出てくる。バラバラになった夫婦を結び直す、物語の鍵ともいえるせりふだが、じつはこれも、犬の散歩で知り合った男性が、ふともらしたひとことだそうだ。
「すごく成功して、いまはもうリタイアした方でしたけど、ずっと心に残ってたんですね。そういうきっかけがないと、私は漫画が描けないんですよ。自分が出会った人の言葉でも、すごくよくできた映画でも小説でもいいんですけど、何かひっかかりがあって、そこから広げていく。ちなみに、『CASE1』の万里凛の話は、マリリン・モンローの、〈女の子が本当に求めているのは男はみんな同じじゃないことを証明してくれる、たった一人の男だけなの〉という言葉からつくったものです」