ベストセラー作家・橘玲さん
宇都宮:それはもう「婚前旅行」ですよね。
橘:だから、きちんとお互いの意思を確認しておこうと、「旅行に行くなら結婚を前提として付き合いたい」と言うのですが、そうしたらどんな答えが返ってきたと思いますか? 「言い出しにくかったんだけど、ちゃんとした交際はやめておきたい」って。理由を聞くと「これまでずっと自分に自信がなくて、結婚なんて無理だと思っていたけど、あなたと付き合って自分にもまだまだ可能性があるとわかった。だから、あなたとは結婚せずにもう一回婚活をがんばりたい」って(笑い)。
宇都宮:ひどすぎるし、それを本人に言うのも正直すぎませんか(笑い)。でもまあ、彼女の気持ちも分からなくないです。
「ジジイをランク分け」高齢者の婚活はかなりエグい
橘:だから、恋愛の自由化というのは悲劇を生むんです。女性は「もっといい人がいるかもしれない」と思って探し続けてしまうし、男性の中には、第一関門である「女の選り好み」を突破できずに、一度もデートしたことがないし恋人ももちろんいない、いわゆる「非モテ」がどんどん増えてくる。だから、SNSによって出会いの場がいくら増えてもうまくいかないし、何より面倒くさい。
宇都宮:そんな中で、恋愛と同等のときめきをくれるのが「推し」というわけですね。
橘:そうです。女の子とのリアルな恋愛が面倒になった男がアイドルを推すのと同様に、女の子も身近な男と面倒な恋愛をするくらいなら、ジャニーズの松本君を推していたほうが楽しいし傷つかない。かつてはジェンダー格差がいまより大きくて、結婚しなければ生きていけない女性がたくさんいたということもあると思います。
宇都宮:したくない結婚を無理にしなくてもよくなったというのは、悪くない気もします。あと、いまの「恋愛の自由化」の話ですごく気になったのが高齢者の恋愛事情。「人生100年時代」というからには、自由化とともに高齢化も進んでいるじゃないかな、と思って。シニアの恋愛をドラマチックに描いた『黄昏流星群』みたいな世界が現実にもどんどん出てきているんじゃないかな?と……。
橘:幻想を壊すようで申し訳ありませんが(笑い)、高齢者の婚活をしている人を知っていますが、中年男性の婚活以上にシビアな世界です。70歳過ぎで、定年退職しているものの学会の会長で、趣味はオペラという方ですけど、彼いわく「高齢者婚活は金次第」だというんです。
宇都宮:そんな身も蓋もない……。
橘:どういうことかと言うと、男は収入別にA、B、Cの3つのランクに分けられて、Aランクは年金に加えて、不動産収入や株の配当で毎月プラス50万円。Bランクは年金プラス10万円そこそこ、Cランクは年金しかない。Aランクの男は容姿に関わらずものすごく人気があって。
宇都宮:反対にCランクは全く相手にされない、と。ちなみにその彼は何ランクなんですか?
橘:世間的には高収入なんでしょうが、離婚で財産分与したことで、Bランクに落ちてしまったそうなんです。自分は高学歴で趣味もオペラだし、同世代の中ではイケてるほうだと思っていたけど、Aランクの男には全然かなわない。なぜなら、高齢者婚活に来ている女性の目的は老後の経済的な不安の解消だから。いわばプライベート介護士で、何なら、年を取っていれば取っているほどいい。
宇都宮:つまりそのほうが早くその「収入」が自分のものになる、と。