テレビ番組を「ツマラナイ」ものにしたのは…
さて、ドラマ『不適切にもほどがある!』ではかつて視聴者がワクワクしてテレビを見ていた時代のオマージュがところどころに発揮されている。日本テレビ系『11PM』、テレビ朝日系『トゥナイト』などがセリフで出てくるし、フジテレビ系『オレたちひょうきん族』が30%近い視聴率を稼ぐ時代でもあった。
市郎がタイムスリップした1986年当時と比べてみた時にテレビ番組をツマラナイものにしたのは「働き方改革」だけではない。コンプライアンス重視の考え方が広がったこと、SNSなどで「不謹慎」が叩かれてしまう世の中になったことなど背景はいくつかある。1986年当時は存在していなかった動画投稿サイトに視聴者を奪われたことも大きい。テレビの他に選択肢が増えて、人間が24時間しか持っていない「可処分時間」の奪い合いとなっている現状がある。
それでもドラマ第2話で渚が指摘したように、面白いものを作ろうとするテレビ局の「(制作者の)心がない」状態に変化したことはかなり大きな要因だと思う。このことに改めて気がつかせてくれた回だった。
ちなみにこのドラマは仕掛けも巧妙だ。毎回ところどころに「この作品には不適切な台詞や喫煙シーンが含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、1986年当時の表現をあえて使用して放送します」という“お断り”(!)が出てくる。あくまで「時代」を描いたものである、というエクスキューズである。ドラマのタイトルで「不適切」を強調しているのもこのためだろう。
第1話は無料配信の総再生数でTBSの金曜ドラマとして歴代1位を記録したというのもうなずける。名手・宮藤官九郎の脚本を阿部サダヲや仲里依紗、吉田羊ら少しクセ強めの俳優たちが演じるのも楽しみだ。
予告を見ると第3話もテレビ局の情報番組などが舞台になっているらしい。今後はテレビのどんな「不適切」が描かれるのだろうか。
【プロフィール】
水島宏明(みずしま・ひろあき)/1957年北海道生まれ。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。放送批評誌「GALAC」前編集長。近著に『メディアは「貧困」をどう伝えたか 現場からの証言:年越し派遣村からコロナショックまで』(同時代社)、『内側から見たテレビ─やらせ・捏造・情報操作の構造─』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)。