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カツオの豊漁が意味するものとは?
「カツオ水揚げ量35倍」は前兆? 阪神・淡路ではマダイ、東日本大震災ではカレイの豊漁報告
 豊漁でお手頃価格となり、テレビで連日取り上げられている「カツオ」。家計の“救世主”が、本当に私たちの命を助けてくれるかもしれない。過去の大地震では、まず漁港で異変が起こっていた。豊漁が意味する重要な“サイン”を専門家が指摘する。 6月中旬、スーパーの店内で何人もの主婦が足を止めたのは鮮魚コーナーだった。彼女たちが、次々に手を伸ばしていたのは、「カツオの刺身」だ。今年のカツオは例年より脂が乗って弾力があるうえ、4月の半額ほどで味わえる。 お手頃価格の理由は「異例の豊漁」だ。もともと5〜6月にかけて漁の最盛期を迎えるが、カツオの水揚げで知られる千葉の勝浦港や銚子港では、5月の水揚げ量が4月と比べて35倍にも跳ね上がったという。食品や日用品の値上げが続くなか、家計にとってはうれしいニュースだが、喜んでばかりではいられない。武蔵野学院大学特任教授で地球物理学者の島村英紀さんが話す。「異例の豊漁が続いた後に、大地震が発生するケースは少なくありません。カツオの豊漁がなんらかのサインである可能性も考えられます」 これまでも大地震の発生前に魚が異常な行動を見せる例は多くあった。たとえば、1995年の阪神・淡路大震災では、震源となった淡路島の沖合でマダイが大量に網にかかった。地震発生4日前の1月13日は32kgと平年並みの水揚げだったが、前日の1月16日には1200kgを記録したのだ。通常の40倍近い豊漁に沸いた直後、港町は大きな揺れに襲われた。 2011年3月の東日本大震災の直前にも、海の中で変化が起こっていた。津波に襲われた岩手県沿岸部の大槌町沖でカレイが、同じく甚大な津波被害に遭った福島県浪江町ではアイナメが豊漁だったと報じられている。 東日本ではないが、同時期に西日本でも異変が見られた。徳島・小松島漁港で1〜2月、例年の2〜4倍のイカが水揚げされたのだ。ベテラン漁師は地元新聞の取材に対してこう話している。「阪神・淡路大震災のときもそうだが、1946年の昭和南海地震の直前にもイカが大量にとれた。あまりに大漁なので、変だと思っていた」 前出の島村さんも地震にまつわる伝承は確かにあるという。「東北の三陸地方では、『イワシが大漁の年には大地震が来る』という言い伝えがあります。明治三陸地震(1896年)と昭和三陸地震(1933年)の直前には、イワシが異常なほどとれたそうです」 なぜ豊漁が地震と結びつくのか。「地震発生の前段階として、海底で岩盤がぶつかり合ったり、割れたりするのですが、その際に電流や磁気などが発生するという研究結果があります。水中生物は微弱な変化を敏感に捉えるセンサーを持っており、その感度は人間が作ったセンサーよりも桁違いに高い。水中生物が海底からの異常を感じ取ることで、彼らの生態や行動に異変が生じた可能性があります」(島村さん・以下同)地震の予兆とプランクトン増 実際に行動パターンにも変化が訪れている。いま、大量に水揚げされているカツオは千葉県沖から三宅島、八丈島近海でとれたものだ。回遊魚であるカツオは例年1〜2月頃にフィリピンやインドネシア沖の亜熱帯海域から三陸沖に向かって北上を始め、8〜9月頃に三陸沖に至ると、秋口にUターンして亜熱帯海域を目指す。しかし、近年では亜熱帯海域まで南下せずに、日本の近海で越冬する群れもいるという。「現在、小笠原諸島では2021年8月に海底火山の福徳岡ノ場が噴火するなど、活発な活動が見られています。火山活動によって海水温や海底環境が変わり、イワシが集まったことで、イワシをエサとするカツオが日本近海にとどまったことも考えられます」 本来、イワシは春から夏にかけて北海道沖や三陸沖に移動する。島村さんはカツオがエサとしているイワシが日本近海にとどまっていることこそに警鐘を鳴らす。東京大学名誉教授で水産学者だった故・末広恭雄氏は1933年の昭和三陸地震の直後に発表した研究論文『魚類を通して見た地震』のなかで、地震とプランクトンの関係性を指摘している。 地震発生前日の夕刻、神奈川県の三浦沖で捕獲されたイワシの腹に、通常の5倍の定着性プランクトンが確認されたという。定着性プランクトンとは、海底のプランクトンだ。通常イワシは海面近くを群れで泳ぐため、地震の直前に、なんらかの変化が海底であり、プランクトンが浮き上がったと分析されている。 海底の異変を示唆する現象としては、豊漁のほか、異常な不漁、珍しい深海魚の出現なども考えられるという。「駿河湾の深海に生息する、サクラエビの歴史的な不漁が続いています。サクラエビは水中生物の中でも特に優秀なセンサーを持っています。海底でなんらかの異変を感知しているのかもしれません。駿河湾の海底には『駿河トラフ』が存在し、そこから南西方向に連続しているのが『南海トラフ』です。つまり、駿河湾で異変が起きているということは、甚大な被害が予想される南海トラフ地震も懸念されるのです」 実際にカツオの豊漁が続く房総沖や関東近海では、地殻変動が続いている。京都大学名誉教授で地球科学者の鎌田浩毅さんが解説する。「東日本大震災で1000年ぶりの大きな地殻変動の時代が始まり、日本列島は不安定になりました。房総沖や関東近海の地殻変動も、これと無関係ではありません。さらに、房総沖や関東近海のプレートが動くことで、マグニチュード7を超える首都直下地震が発生する“Xデー”が近づく可能性も充分にあります」 首都直下地震の場合、津波の心配はさほどないが、建物の倒壊や火災のリスクが非常に高い。5月25日、東京都は首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直し、新たに報告書を発表した。最大で約19万4431棟の建物被害、6148人の死者が出る可能性があるという。10年前の想定から約3割減となっていたが、鎌田さんは「都の見通しには建物や上下水道などの老朽化による被害増が含まれていないため、安心してはいけない」と警鐘を鳴らす。「首都直下地震は30年以内に70%の確率で起こるといわれていますが、発生時期の具体的な予測はできません。つまり30年後かもしれないし、明日かもしれないのです。日頃から充分な備えが必要です」(鎌田さん) 魚たちが教えてくれる地震の予兆を見逃してはならない。※女性セブン2022年6月30日号
2022.06.18 19:00
女性セブン
『成城石井自家製 リンゴ酢ときび糖仕立てのキャロットラペ』
「成城石井」のオリジナル商品 開発は“理想の商品が見つからなかった”とき
 駅ナカを中心に、全国20都府県に199店舗(2022年6月中にオープンする店舗を含む)を展開し、今年創業95周年を迎えたスーパーマーケット「成城石井」。ズラリと並んだ商品を眺めているだけで時間が経つのを忘れてしまうほどの品ぞろえは、まるで食のテーマパーク! 輸入食品を扱うスーパーはいまでこそ数多く見られるが、その中で、いち早く自社輸入を開始したのが「成城石井」だ。 1984年より商社を通さず自社輸入することで、中間マージンを省き、手に取りやすい価格を実現。ワインからお菓子、調味料など、ほかでは見ない豊富な品ぞろえと品質には定評がある。 その理由を、同社商品部の小林さゆりさんはこう語る。「“世界の食品を世界の街角の価格で”をコンセプトに、27人のバイヤーが日々尽力しています。取り扱いアイテムは、現在1万点以上ありますが、お客様には『選ぶ楽しみ』をお届けしたい。そのため、たとえばドレッシングだけでも100種類以上をそろえています」 これだけの商品を極力欠品させず、安定供給し続けることもバイヤーの責任となるが、商品の買い付けに欠かせないのが調達力だ。「バイヤーとしての経験値や、ブームが来ることを見越して半歩先のニーズを見極めることを心がけています。そして何より、必ず味を確かめて比較検討すること。たとえば『ハンターズ 黒トリュフフレーバーポテトチップス』などは、トリュフ人気の高まりに着目して買い付けた大ヒット商品です」(小林さん・以下同) バイヤーの仕事は国内外の仕入れだけではない。いまや成城石井の柱の1つとなっている「オリジナル商品」の企画開発も行っている。「一般的なPB(プライベートブランド)とは異なり、理想の商品が見つからなかった場合に、よりお客様がお望みのものをお届けするためにオリジナル商品を企画します。開発会議を通り商品化されるのは、わずか2〜3割。経験のあるバイヤーが担当していますから、味の追求にも妥協がありません」 このようにひとりで何役もこなすバイヤーは、さぞ特殊能力の持ち主だろう、と思いきや、資格などの決まりは特にないというから驚きだ。「共通点があるとすれば、店舗スタッフを数年経験している、ということです。お客様のご要望を知るためにも、現場を知っていることが最も重要な要素と考えています」成城石井の商品の主なカテゴリーは4種類自家製商品 「セントラルキッチン」で調理人が開発・製造する本格的な総菜やデザートなど。自社輸入の強みで、高品質な素材や調味料を使用できる。自社輸入商品バイヤーが海外へ直接出向き、目と舌で見つけた商品や原料を自社で輸入。成城石井で輸入したものを他店に卸す場合もある。オリジナル商品バイヤーがメーカーにアイディアを伝え、これまでにない理想の商品を開発。成城石井のアイディアとメーカーの技術が形となった商品。仕入れ商品バイヤーが世界各国、日本各地を飛び回り発掘した商品。良質でほかではなかなか見ることのない、個性的な商品も多い。 そこで、成城石井のバイヤー達が選んだ注目の商品を紹介する。【自家製総菜】担当バイヤー・綾部夏実さん 自社セントラルキッチンのプロの調理人が中心となって開発・製造を行う「自家製総菜」。本格的な味を家庭でも気軽に楽しめる。『成城石井自家製 リンゴ酢ときび糖仕立てのキャロットラペ』/1パック323円きび糖を使用した甘さとりんご酢のフルーティーな酸味により、にんじん独特の風味を和らげている。レーズンやアーモンド、そしてオリーブが味わいと食感のアクセントになっており、“食べ飽きない”という声も多い。「まろやかな酸味がお子様でも食べやすくお弁当のおかずにも最適。1パックあたり約1本分(150g)のにんじんを使用しています」(綾部さん・以下同)『成城石井自家製 黒酢たれのしび辛スパイシーチキン』/1パック 604円 豆板醤、豆チ醤、にんにく、しょうが、花椒を入れた黒酢たれに絡めたチキンに、長ねぎ、水菜などをのせて彩りよく仕上げた商品。「おかずが足りないときにこれを追加すれば、見た目もよく食卓が華やかに。また、“しび辛”の味わいは、お酒のおつまみにも最適です。しっかりとした味付けなので、ご飯にもお酒にもとてもよく合います」。『成城石井自家製 彩り揚げ野菜の香味ドレッシングサラダ』/1パック 539円 素揚げしたかぼちゃ、インゲン、おくら、パプリカのほか、ごぼう、ヤングコーン、れんこんなども入ったサラダ。しょうがや長ねぎ、ごまを入れた、甘酸っぱく風味豊かなドレッシングでどうぞ。「『1日分の緑黄色野菜が摂れる』ことがコンセプトです。彩り豊かでボリュームたっぷりのサラダに、しょうゆベースの甘酸っぱいドレッシングは、相性抜群です」。【自家製スイーツ・パン】担当バイヤー・綾部夏実さん、八尋佐和子さん パティシエや職人を中心に自ら開発する「自家製スイーツ・パン」には、いまや看板商品となっているものも数多くある。『成城石井自家製 プレミアムチーズケーキ』/1本907円こだわりは3層の生地。いちばん下はきび糖を使用したナチュラルな甘さのスポンジ。真ん中はクリームチーズをベースに丁寧にローストしたスライスアーモンドとレーズンをたっぷりと加えたチーズケーキ。いちばん上はアーモンドプードルとバターを使ったそぼろ状のシュトロイゼル(シュトロイゼルはパンやマフィン、ケーキの上に、小麦粉やバター、砂糖などを混ぜたものをのせて焼くとできる、そぼろ状のトッピングのこと)。「シュトロイゼルのサクサク食感と、レーズンの甘み、アーモンドの心地よい歯ざわりと風味が濃厚なチーズケーキのアクセントとなっています。成城石井で取り扱うすべての商品の中で売上No.1を誇り、年間約100万本を売り上げる商品です。常温で持ち運びできるため、手土産としても大人気です!」『成城石井自家製 ホットビスケット』/4個入り399円小麦本来の風味や味わいを生かす配合で作っており、噛むほどに小麦の甘みが感じられる逸品。まわりはサクッと、中はふんわりやわらかな食感も特徴だ。かわいいドーナツ形は、ひとつひとつ手作業で型抜きをしている。「年間で約72万袋を売り上げる、大人気の商品です。甘さ控えめなので、どんな食事に合わせても相性抜群、特に朝食やおやつなどにぴったりです」(八尋さん)●バイヤー直伝 食べ方アレンジ!  オーブントースターなどで温めて、はちみつやメープルシロップをかけるとおいしくお召し上がりいただけます。また、エッグベネディクト風にするなどアレンジするのもおすすめです。『成城石井自家製 フレッシュ台湾パインとキウイの紅茶ゼリー(アールグレイ)』/1パック388円 店頭でも販売している紅茶「成城石井 アールグレイ」の茶葉を煮出して作ったゼリーに、ほどよい甘みのマンゴーパッションフルーツゼリーと台湾パイン、キウイを閉じ込めている。ベルガモットの香りが特徴のアールグレイと酸味あるフルーツの相性が抜群だ。「アールグレイは80℃で1分半煮出して丁寧にこすことで、透明感のあるゼリーに仕上げています。暑い時期に、フレッシュフルーツとさっぱりとしたゼリーの組み合わせはおすすめ!」(綾部さん)取材・文/苗代みほ※女性セブン2022年6月30日号
2022.06.18 07:00
女性セブン
高齢になってからの生活習慣をどう考えるか(イメージ)
和田秀樹氏が提言 70歳からは…「健康診断、減塩、お酒控えるのをやめていい」
「80歳を超えて元気で過ごすには、“我慢をやめる”ことが大切です」と指摘するのは、高齢者専門の精神科医としてこれまで6000人以上を診察し、近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)や『老いが怖くなくなる本』(小学館新書)が話題となっている和田秀樹氏だ。 和田氏がまず、やめていいと指摘するのが健康診断だ。健康診断で数値が悪いと医師から生活指導を受け、正常値に戻す治療を促されるが、和田氏は「70歳からは結果を気にしなくていい」と言う。「健康診断の結果は現代人には合わないと考えられます。例えば、1980年まで日本人の死因の1位は脳卒中で、当時は血圧が150程度で脳の血管が破れていました。そのため血圧を下げる生活指導が盛んになったのですが、栄養状態が良くなり、たんぱく質を多く摂取するようになった現代の日本人の血管は丈夫になった。今では血圧が200あったとしても破れることは少なくなりました。 もちろん、脳に動脈瘤がある人はくも膜下出血のリスクが高まるので血圧を下げる治療の効果はありますが、一律に血圧を下げなければならないと考える必要はありません」 同じく、生活習慣病予防のために血糖値やコレステロール値を正常値に戻そうと減塩したり甘いものやお酒を控えることにも和田氏は疑問を呈す。「脳内出血が少なくなってきたために、健康診断の目的は“動脈硬化予防”にシフトしました。動脈硬化は血管の壁が厚くなることを指しますが、生活習慣病によって進行していくため、血圧や血糖値、コレステロール値のコントロールが推奨されています。 ただし、動脈硬化の最大の要因は加齢です。それを無理に薬で数値を下げることにはリスクもある。脳に酸素やブドウ糖を巡らすためには、70歳を過ぎたらむしろ血圧や血糖値はある程度高めのほうがいい。食事制限による低血糖に陥るより、好きなものを食べて血糖値を保ち、脳などの血流を良くしたほうが元気に過ごせます」 旧来の常識である食事制限や体重制限の考え方はアメリカを手本にしており、「そもそも日本人には合っていない」と和田氏が続ける。「アメリカでは、肥満を忌避しダイエットを推進する健康志向が強い。ただし、それはアメリカ人の死因の1位が心疾患で、その背景に肥満が多いことがあると考えられているからです。がんが死因のトップである日本でアメリカ型の健康法は合理的とは言えません。 例えば、コレステロール値が高いと心筋梗塞を起こしやすく、低いとがんになりやすいという疫学調査があります。さらに、がんの予防には免疫力を高めることが重要で、血圧や血糖値、コレステロール値を薬で下げて免疫機能を落とすことは、がんのリスクを高めることにもなりかねません」 それを回避するために、積極的な肉の摂取を和田氏は勧める。「コレステロールを多く含む肉は免役機能を向上させ、男性ホルモンの素にもなります。男性ホルモンが充足すると記憶力や判断力、意欲が湧き、筋肉を作ってくれる。そもそも日本人は肉を1日100gしか食べていないので、150gくらいは食べても平気です」 減塩やダイエットといった節制は心筋梗塞、脳梗塞などのリスクを下げるとされるので、「血管系の疾患とがんなどその他の病気の予防のどちらを優先するかはその人の考え方次第でもある。ただ、何も考えずに“とにかく我慢しなくては”と思い込むことはやめたほうがいい」と和田氏。もちろん、薬を減らしたりする際には自己判断は禁物。信頼できる医師に相談しながら進めるのが必須だ。※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.18 07:00
週刊ポスト
中野信子氏
なぜ人はウソやフェイクに騙されるのか 脳科学者・中野信子氏が解説
 フェイクニュース、マルチ商法、振り込め詐欺など、日常生活において、ウソやニセにまつわるニュースが溢れている。そうした事件やエピソードを目にするたび、「なぜあのようなウソに騙されてしまうのか理解できない」と疑問を感じる人が多いのではないだろうか。しかし、『フェイク~ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』(小学館刊)を上梓した脳科学者の中野信子氏は、ウソやフェイクを心地よく美しく感じてしまうのが我々人間の脳の性質であり、「自分は騙されない自信がある」という人は逆に騙されやすい傾向があると指摘している。著者の中野さんに話を聞いた。 * * *──なぜ私たちはウソやフェイクに騙されてしまうのでしょうか。 中野:人間の脳は、論理的に正しいものより、認知的に脳への負荷が低い、つまり分かりやすいものを好むという性質をもっています。 脳は一言で言うと怠け者です。思考のプロセスでもできるだけリソースを使わないようにして、消費するエネルギーを節約しようとしています。 というのも脳は、酸素の消費量が人間の臓器の中で最も多く、その占める割合は、身体全体で消費する酸素量のおよそ4分の1です。ですから、基本的にあまり働かないように、つまり思考しないようにして脳の活動を効率化し、酸素の消費を抑えようとするのです。 例えば脳は「処理流暢性が高い情報」を好みます。「処理流暢性が高い情報」とは、「簡単で分かりやすい情報」です。膨大・複雑でなく、整理されていて、一目瞭然、つまり考えなくて済む、脳が働かなくてよいということです。テレビの映像や、短く整理されたWebの「まとめニュース」などは、処理流暢性の高い情報です。どんなに正しい情報でも、冗長で複雑、処理流暢性が低いと、「何だろう? どういうことなのだろう?」と距離をとって考えますが、逆に多少自分の意思とはずれていても、短く分かりやすい言葉でズバリと言われると、「なるほど」と肯定してしまう。間違った情報だとしても、短いセンテンスでズバッと言うと、耳目に入りやすく納得してしまう。これは処理流暢性が高く、シンプルで理解しやすい情報に対し、脳に「好感」が生じている現象です。   つまり私たちは意外なほどウソに弱くできているのです。論理は強力なものではありますが、その運用には脳をそれなりに頑張って使わなければならないという罠があるのです。いずれにせよ、「脳は騙されたがっている」という性質があることは忘れずにいたほうがよいでしょう。ウソは生き抜くために必要不可欠なもの──私たちはウソやフェイクに騙され続けるしかないのでしょうか。中野:信頼している人が自分にウソをついたことが分かると私たちは深く傷つき、悩み、相手とそして時には自分自身を責めてしまいます。 しかし、自分自身も数えきれないほどのウソをついているはずです。誠実であることを求められる一方で、私たちは自分たちが周囲から期待されている役割を演じ、その場にふさわしいウソをつき社会生活を送っています。お世辞や謙遜もウソと言えばウソかもしれません。けれども、ちょっとしたお世辞や謙遜もできなければ、何ともギスギスした会話になってしまうでしょう。実はこうした思いやりのウソ、礼儀としてのウソによって、人間関係が成り立っているのです。 つまり「ウソは、人が他人と一緒に生き抜くために必要不可欠なもの」ということになるのではないでしょうか。もしウソが人間にとって本当に「よくないこと」「不要なもの」であったのならば、この能力はとっくに退化して消失していることでしょう。人間はむしろ積極的に、ポジティブにウソを利用しながら、集団を保持し、人間関係を構築してきたとも言えるのです。 ウソという概念を完全に否定し排除するのではなく、何のためにウソをつくのか、なぜ騙されてしまうのかをよく考察する。そして有益なウソと悪意のウソがあるということを知り、ウソに対する目利きができるようになれば、ウソの手口を理解し、ウソに騙されるリスクヘッジができるようになると思います。 ──組織ぐるみのウソいわゆる不正も後を絶ちません。中野:企業の不正がなぜなくならないのかと言えば、共同体によってそれぞれの基準がある以上、片方から見れば不正であり、片方から見ると不正ではないという事象が生じてしまうからです。コンプライアンスやガバナンスといった言葉が言われて久しく、どの企業も、その法令遵守、企業統治の徹底に尽力していても、今なお企業による不正=ウソの事件が絶えないのはこうしたダブルスタンダードが存在するからでしょう。 そして残念ながら人間は基準が変わっても、その間を行ったり来たりできるようにつくられているのです。究極的な例を挙げると、戦場では人を殺すことが正義である。けれども平時においては、人を殺すことは許されない。そんなダブルスタンダード、トリプルスタンダードでも生きていけるようにつくられているのです。だから不正をなくすことは非常に困難なのです。 企業の中では、ウソをつくことが推奨される場面もあります。けれども、ウソをつくことが禁じられている場面もあります。どちらにも適応できるというのは、実は組織人としての資質の一つとされてきた部分があるのでしょう。 だからこそ企業の不正を防ぐためには、「不正をなくす」というスローガンを掲げるだけでなく、社内にどのようなダブルスタンダードが存在するのか、その背景を含め把握する必要があるでしょう。メタ認知が弱いと騙されやすい──本質的に騙されやすい人と、そうではない人との違いは何でしょう。中野:大きな違いの一つは、騙されやすい人は「メタ認知」が弱いことです。メタ認知とは、「自分を俯瞰して見ること」です。「自分が認知していることを、客観的に認知すること」でもあります。 そもそも騙されないためには、「(自分を含めて)騙されない人間はいない」と思うことが大切で、これも「メタ認知」です。もし「自分だけは騙されない」と信じて疑わない人は、メタ認知が弱く、逆に騙されやすい傾向があると言えるでしょう。 メタ認知能力を高めるためには、まず、普段から自分を内観し、記録することをお勧めします。例えば日記をつけたり、メモをとったりするのもよいでしょう。自分の行動と、そのときどのように感じたのかをなるべく盛らずにありのまま記録するのです。重要なのは、たびたびその記録を読み返すことです。繰り返すことで、自分の性格や行動パターンが見えてくるでしょう。 すると、自分は正直者であり、なおかつ騙されにくいと思っていたのに、自分が意外にたくさんのウソをついていて、しかも、コロリと騙されやすい側面があったなどの気付きを得られるはずです。必要なのは、「人はウソをついてしまうものなのだ」、そして「騙されやすいものなのだ」と認めることです。 そしてそのウソがどんな性質をもち、何のためにつくウソなのか? 悪意のあるものとやむを得ないこと、思いやりのあるものとの違いを見極めつつ、うまく付き合っていくスキル・知恵こそ今の時代に求められるのではないでしょうか。
2022.06.18 07:00
NEWSポストセブン
『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』著・小泉悠
【書評】『ロシア点描』 花好きで親切で日本びいきなロシア人の素顔に踏み込む
【書評】『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』/小泉悠・著/PHP研究所/1760円【書評】嵐山光三郎(作家)『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)がベストセラーになった小泉悠氏が語るロシア人の謎。公務員への賄賂がビジネス化した社会で、徴兵逃れのため、医者に賄賂を払ってニセの診断書を書いて貰う。ロシア人の奥様とモスクワで暮らしていたころ(二〇〇九~一一年)の極秘話が、あれやこれやと出てくる。 ロシア・マフィアは刑務所に入るたびにタマネギ屋根(ロシア正教聖堂)の入れ墨をふやし、これが多いほど箔付け勲章となる。「ルールです」といわれると破りたくなる国民性。日本の生活用品が好きで、「町を歩くと突然話しかけてくる」。底なしの親切さがあり、日本びいきだ。 モスクワの地下鉄は地下八十四メートルで、エスカレーターのスピードが早すぎる。そんなエスカレーターでキスする恋人たち。防空壕としての地下鉄は核攻撃のときの避難所となる。 エストニアの首都タリンにあるKGB博物館。22階建てホテルの「存在しない23階」は、外国訪問者たちの会話を盗聴する部屋だ。コンクリートの壁、柱の中、コーヒーカップ皿にまでマイクが仕込まれていて、電波ですべてKGB盗聴室へ送られる。 そのくせ花好きで、町には24時間営業の花屋がある。すし屋、ラーメン屋、日本料理店、たこ焼き屋まである。日本製シャンプーや菓子が買える「ヤポーナチカ」という店がある。奥様と暮らしていたころのモスクワ地下鉄には犬が一緒に乗ってきた。 小泉氏のような軍事オタクが狂喜する軍事博物館「愛国者公園」は、戦車や戦闘機から大陸間弾道ミサイルがあり、これも写真入りで掲載。そこへやってきた北朝鮮の武官に足を踏まれた。香水の匂いがして、すかさず、「人民が苦しんでいるのに、こいつらいい生活をしているんだなあ」と嘆息する。モスクワで娘が生れたとき、病院の医師から賄賂を要求されて支払った。そんなことまでバラしちゃう「ロシア人の素顔」に踏み込んだ力作。※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.17 19:00
週刊ポスト
著者インタビュー『現代思想入門』千葉雅也さん「損か得かで物事は割り切れない」
著者インタビュー『現代思想入門』千葉雅也さん「損か得かで物事は割り切れない」
【著者インタビュー】千葉雅也さん/『現代思想入門』/講談社現代新書/999円【本の内容】「はじめに」で現代思想を学ぶ「メリット」が具体的に綴られている。《現代思想は、秩序を強化する動きへの警戒心を持ち、秩序からズレるもの、すなわち「差異」に注目する。それが今、人生の多様性を守るために必要だと思うのです》。立命館大学文学部の授業「ヨーロッパ現代思想」をベースにしているという本書は、ツイッターでの出来事など卑近な例も交えながら、まるで講義を聴いているような語り口で進む。デリダ、ドゥルーズ、フーコーらの哲学を学びたい人のほか、生きづらさ、息苦しさを感じている人におすすめの一冊。本格的なものを欲している読者は実は結構いるはず デリダ、ドゥルーズ、ラカンといった現代思想の代表的な哲学者の思考術を一般読者にもわかるように紹介する『現代思想入門』が売れている。発売3か月ですでに9万部に達する快挙だ。「こんな硬いタイトルの本なのに、ここまで注目されて、自分でも驚いています。小説も含めたぼくのコアな読者はもちろんですけど、それ以外の、読者層の広がりを感じますね。ツイッターで自分の本の感想をいつも読むんですけど、教育現場の人や福祉の現場で働く人、ビジネスパーソンなど、いろんな人が自分のフィールドで応用を考えてくださっていてうれしいです」 デリダやドゥルーズ、ラカンにしても、二項対立をくつがえす「脱構築」という概念にしても、難解で、歯が立たない印象がある。それでも、わからないものを何とかわかりたいと学習意欲を持っている読者は、意外にたくさんいるのかもしれないと思わされる、今回のヒットだ。「もっと俗っぽいものを書かないと興味を持ってもらえない、と出版関係者はよく言いますし、実際に、そういう企画の立て方をしていると思うんです。でも、本格的なものを欲している読者は実は結構いるはずです。本格的な内容を世俗とつなげる書き方も可能で、そういうふうに書けば、きちんと届くんだろうとぼくは思っています」 本のタイトルは「入門」だが、この本がめざしているのは「入門の入門」。できるだけ入りやすい入口を設定し、何かひとつ興味を持てたら、次は何を読めばいいか、丁寧に誘導する構成になっている。 千葉さんがこれまで大学で教えてきた哲学の授業の内容をもとに、学生たちの反応も踏まえて練り上げられているから、とても読みやすい。「大学の半期の授業では、じっくり本を読ませるところまではいけませんから、どうしても、『授業プラス学生に自分で読書してもらう』の二本立てになります。授業はその年によって話し方を変えたりもしますし、毎年しゃべっていると、だんだんストーリーが凝縮されてくるんです。 この本は一気に書き上げていますが、長年の蓄積があって、何度も練習してきた話です。ぼくは15年ぐらいツイッターをやっていて、そこで見てきた現代思想への反発や誤解も、先回りして説明する工夫もしています」 デリダを「概念の脱構築」、ドゥルーズを「存在の脱構築」、フーコーを「社会の脱構築」とそれぞれ説明する。その源流にある、ニーチェやフロイト、マルクスの思想も解説しながら、歴史的な知識を詰め込むのではなく、思考術のパターンとして紹介する。 現代社会の複雑さを、複雑なまま、単純化せずに捉えるにはどうしたらいいか。哲学の本には珍しく、「ライフハック(仕事や生活に役立つ技術のこと)」という言葉で説明したりしながら、スムーズに実践へといざなう。「学問は、『使ってなんぼ』と思ってるので(笑い)。考え方のOS(オペレーティングシステム。コンピューターを動かすための基本ソフトウエア)、自分の生活に結びつくような思考術のパターンをしっかり教えるほうが、長期的に見て独学力を高めることになると思います」プロとは「自分の頭の中身を総とっかえできちゃう人間」 この本のコピーは「人生が変わる哲学。」である。「挑発しています。自分の価値観を変えたくない人は意外に多くて、特に中高年の男性に多いですね。ただ、『人生を変える哲学。』だと、この本によって無理やり変えられるようで、嫌だと感じる人がいるかもしれない。『人生が変わる哲学。』にすると、いつのまにか、ころっと変わっちゃうニュアンスが出て、多少、抵抗感も和らぐかな、と。 ふつうの人は、学者になる、プロになるには、自分の考えをしっかり持つことだと勘違いしがちです。そうではなくて、プロというのは、自分の頭の中身をいつでも総とっかえできちゃう人間のことです。自分が変わることを怖がらない。スケボーのオリンピック選手が、危険な技に平気で挑めるのと同じです」「盗んだバイクで走り出す」という有名な歌詞がある。本の冒頭で、かつては体制批判と受け止められたこの歌詞が、現在では「他人に迷惑をかけるなんてありえない」という捉え方もそれなりにあると書かれていて驚いた。「ネットでは結構、話題になった話ですね。コロナ以前は、フーコーが論じた監視批判について話すと、『治安の維持に重要だからもっと監視をやったほうがいい』という学生のコメントが、少数ですがあって、ぎょっとしました。コロナ後は、『まさに今の状況だ』というふうに、学生の反応がヴィヴィッドになっていますね」 コロナ禍が長引いたことや、ロシアのウクライナ侵攻など先行きが見えない社会状況も、この本への関心を高めているように思える。「たまたまですけど、結果的にそういう面はあるでしょうね。日本では、特に東日本大震災以降、管理社会化を今後、どうしていくかというのが漠然とした大きなテーマだったと思うんですけど、今回のコロナで、生活の制限だとか、全体のために一部を犠牲にしなきゃいけない、といった局面が一気に強く出てきました。21世紀の社会状況を象徴するようなできごとだと思います。 時代論になるけど、今は、損をしたくないという感情が非常に強くなっています。自分が損したくないという気持ちを押し広げて、誰かが得をしていると、『ずるい』と非難する。ネットで誰かの不祥事を叩いて炎上させるのもそういうことですよね。損か得か、善か悪かの二項対立で判断する人が多くなっているけど、物事はそんな単純に割り切れない。人とのつきあいだって、損も得も両方ある。もっとずっと複雑で、そういうリアリティにこそ人生の喜びはある。20世紀からの、そういう考え方を引き継いでいかないと、どんどん息苦しくなると思います」【プロフィール】千葉雅也(ちば・まさや)/1978年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は哲学・表象文化論。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。著書に『動きすぎてはいけない』『ツイッター哲学』『勉強の哲学』『思弁的実在論と現代について』『意味がない無意味』や、小説『デッドライン』『オーバーヒート』『マジックミラー』などがある。取材・構成/佐久間文子※女性セブン2022年6月30日号
2022.06.17 19:00
女性セブン
酪農を営む実家、今回受賞候補作に作品が選ばれた川崎秋子氏
直木賞候補作家・河崎秋子氏が小説を「仕事」にしたいと決意した日
 第167回直木賞の最終候補作品が6月17日に発表された。『絞め殺しの樹』で初ノミネートとなる河崎秋子氏(42)は、北海道別海町出身。2019年までは実家での酪農従業員の傍ら羊飼いとしても緬羊を飼育・出荷していた異色の経歴の持ち主だ。2012年の北海道新聞文学賞受賞以来、発表作品は4作だが、すでに大藪春彦賞、新田次郎文学賞をはじめ5つの受賞歴がある。まだ酪農家として働いていた頃の河崎氏にとって、小説家として生きていく決意はどのように固まったのだろうか。当時の心境を綴った河崎氏によるエッセイをお届けする(初出『週刊ポスト』2020年5月8・15日号)。 * * * レーシック手術を経て、眼球が新しく生まれ変わった。さあ、この目でものを見て、それを小説にするとしよう。私はレーシック手術の後、前年に応募し落選していた北海道新聞文学賞(以下、道新文学賞)に再び挑もうと考えていたのだ。 道新文学賞は、最終選考委員の先生方の講評が公開される。前年応募した作品は、数名の先生方からご感想を頂いていた。 嬉しかった。内容が好意的だったからだけではない。私の書いた文章を、新聞社の人や、文壇の第一線で活躍しておられる人たちが読んでくれた。朝から動物の世話や介護や家事に追われ、夜、こそこそと一人書いていた小説を、だ。それが私にはとても嬉しかった。 そこで、よし今年も頑張ろう、受賞できるかは分からないが(そりゃ勿論できれば受賞はしたいが)、自分の書きたいもの、書けるものを形にしてみよう。そう考えてがむしゃらに書いた。その結果、この2年目の挑戦である2011年、佳作を受賞することになった。やった、自分の小説が去年よりも評価された、眠い目をこすりながら書いた甲斐があったと私は舞い上がった。そして、緊張しながらもうきうきと札幌で行われる授賞式に出席したのだ。 きらびやかな会場、そこに居並ぶ人たちはみな、言葉に命をかけている人たちだ。審査員の先生方や、過去に受賞された先輩作家さんの厳しくも温かいお言葉ひとつひとつが、自分の糧になっていく感覚があった。 そんな中で、運営をしている文化部の方に声をかけられた。「頑張ってくださいね。佳作二回はないから」 はっとした。賞を頂いてすっかり有頂天になっていたが、ここで終わりではけっしてないのだ。来年また佳作相当の小説を書いたとしても、それは成長がないということを意味する。私は本賞を目指さなくてはならない。そう痛感した。 これは個人的にはものすごくプレッシャーとなった。一般的に小説は書けば書くほど上手くなる、とはいうものの、実際に書いている人間は自分がレベルアップしてるかどうかなんて分からないまま書いている。そりゃもう全力を尽くして物語を綴ってはいるが、その全力を挙げた作品が『去年の方がよかったね』とすげない感想を抱かれたらどうすればいいのだ。停滞ならまだしも、マイナス成長なんて嫌だ。書くからには、私は成長したい。 より良いものを。そう思いながら、夜中に睡眠時間を削って三回目の応募原稿を完成させた。そして数か月後、北海道新聞文学賞の本賞を頂くことになった。『本賞受賞です、おめでとうございます』という電話連絡を受けた時は、嬉しいのとほっとしたのが半々だった。 昨年と同じ授賞式の会場で、滅茶苦茶に緊張しながらスピーチを行った。事前にネットで『スピーチ 緊張をとるには』と調べてみると、『冒頭で「緊張してます」とカミングアウトしてしまうと気持ちが少し楽になる』ということが書いてあった。よしこれだ、と話のアタマで「え~いつも人間よりも牛や羊に囲まれてるので緊張しています」と話したら少しウケたのでほっとしたものだった。 それから何を言ったのかはほとんど覚えていないが、確か、『山に登ることを許されたような気がします』ということを言ったような気がする。その後の受賞パーティーで、先輩作家さんから「まだあなた一合目までも登れてないからね!」と激励されて、またも私ははっとした。そうだ、やっぱりこれは、終わりではないのだ。もっと良いものを書かなければ、書きたい、もっと良い小説を書きたい、その思いばかりが膨らんでいくこととなった。私は「世界のどの位置を占めるか」 その一方、佳作の時以上に、近隣の人からも反響は大きかった。「秋ちゃん、小説書くんだ~」と驚かれることが多く、恥ずかしくもあったが、ほとんどの人が身内のように喜んでくれた。 そんな中、知り合いの女性が「すごいね、おめでとう~」と言った後、さらりと続けた。「文学賞なんかもらっちゃって、ますます嫁の貰い手がなくなるね~」 ご本人からすると親切な忠告のつもりだったのかもしれない。あるいは言葉面通りに皮肉だったのか。 とりあえず、「あはは、そうですね~」と笑って答えたが、勿論いい気分なわけがない。 父の介護がある限り恋愛や結婚のことなど考えられないし、願望ももともと薄いとはいえ、失礼な物言いには腹も立つのだ(というか、賞貰った女相手に腰が引けるような男は、そもそもこちらから願い下げだ)。 いくら北海道の人間がおおらかで細かいことを気にしないとはいっても、結局は狭い人間関係によって成立している地域社会である。『羊なんか飼ってる嫁き遅れ』が『羊なんか飼ってるうえに小説書いてる嫁き遅れ』になって、うすら暗いことを色々と思う人もいるんだろうな、と痛感した出来事だった。 多少もやもやはしたが、結局、私は大いに開き直った。『人様からどう見られるか』なんてことよりも、『どうやって次の小説を書くか』の方が私にとっては大事で、なおかつ途方もない問題なのだ。私の人生になんの責任もとれない人の戯言に構っている暇はない。 なんせ、私はまだ一合目にも至れていないのだ。これからだ、これから。過去に応募した三作でも、思い返すと稚拙なところや表現しきれなかったと思う点は山とある。もっと深く、もっと広く。自分の満足のいく文章を。そして人の心に届く物語を。 大学生の頃、私は不出来で物覚えの悪い学生だったが、ある講義の時に教授が言った一言が心に強く残っていた。『自分は世界のどの位置を占めるのかを考えるように』という言葉だ。 それは世の中における役割とも言い換えられるだろう。私が自分に定めた世の中の役割は、羊飼いとしていい羊を飼育し美味しい羊肉を送り出すこと。そう思っていた。 もう一つ自分に課したい役割が増えた。私は、小説を書くことを仕事としたい。できることなら、羊を飼いながら作家になりたい。明確にそう思い始めた。 実質的なこととして、道新文学賞は非常に厳格かつ適正な審査によって運営される素晴らしい文学賞だが、受賞をしても『デビュー』にはならない。作家になるためには、ここからさらに小説誌が主催する新人文学賞に応募し、賞によっては数千倍の応募作を勝ち抜かなくてはならないのだ。 そんな折、いつものように仕事の休憩中に新聞を見ていると、『三浦綾子文学賞募集』の文字を発見した。三浦綾子。言わずもがな、北海道で文章を書く人間にとって伝説のような方である。その三浦先生が名作『氷点』を発表して50年という節目にあたり、一度限りの文学賞を開催するという。 そして、募集要項の最後の部分に私は釘付けになった。『受賞作は単行本化』という文言だ。 チャンスの神様は前髪しかない、とはだれが言った言葉だったか。私はスピードはないが握力にだけは自信があるのだ。羊の毛刈りで鍛えてるから。 よし。神様の前髪、掴みにいってみようか。そう思った。文/河崎秋子【プロフィール】河崎秋子(かわさき・あきこ)/1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒業後、ニュージーランドで牧羊を学び、実家の酪農従業員の傍ら、2019年まで緬羊を飼育・出荷。12年「東陬遺事」で北海道新聞文学賞、『颶風の王』で14年に三浦綾子文学賞、16年JRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で大藪春彦賞、20年『土に贖う』で新田次郎文学賞受賞。『絞め殺しの樹』が第167回直木賞最終候補作にノミネート。
2022.06.17 11:00
NEWSポストセブン
俳優の岡本信人さんがスマホアプリを使い、マンホール巡りを楽しむ
俳優・岡本信人が行く「マンホール巡り」のご近所散歩 アプリで損傷状態も報告
 マンホール蓋の劣化状態を写真やレビューで報告する社会貢献型ゲームアプリ「鉄とコンクリートの守り人」が話題だ。今回は、散歩好きとして知られる俳優の岡本信人さん(74)が、ご近所散歩をしながらインフラを守る担い手に挑戦した。 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で源頼朝に仕える坂東の重鎮、千葉常胤を演じる岡本さんの趣味は、散歩と野草摘み。撮影など仕事で時間がない時を除いてほぼ毎日、自宅近所を8000歩ほどウォーキングし、四季折々の野草を観察しながら、旬のものを摘んで帰って食べているという。そんな岡本さんに、アプリ「鉄とコンクリートの守り人」を使って東京・渋谷区内を“マンホールの守り人”として歩いてもらった。「わあ、懐かしい! このマンホールの蓋には電電公社のマークが入っているので、民営化前の古いものとわかりますね」 小田急線の代々木上原駅から代々木八幡駅へ向かう途中の住宅街の道で、未投稿のマンホール蓋を見つけた岡本さん。周囲の安全を確認した後、アプリの指示に従ってスマホで撮影して投稿した。しばらく歩くと、今度は蓋の周囲の舗装が陥没したマンホールを発見。レビューで「損傷あり」ボタンをタップして報告した。 アプリ「鉄とコンクリートの守り人」は、日本中のマンホールの蓋を「守り人」(プレイヤー)が協力し合って写真撮影し、損傷状態を投稿することによってインフラの安全を図る社会貢献型位置情報ゲーム。実証実験を経て今春、スマートフォンで楽しめるアプリ版が提供開始され、誰でも街中を歩きながらマンホール情報を集めて楽しめるようになった。開発したのは、市民参画型インフラ情報プラットフォームの構築や運営を手がけるNPO「Whole Earth Foundation」(本社・シンガポール)。開発陣の1人、百瀬開智氏が目的を説明する。「日常生活を支えるインフラに関心を持つきっかけとなり、一人ひとりにインフラを守る担い手になってほしいとの思いから、日本鋳鉄管株式会社とも提携して開発しました。日本全国には下水道のマンホール蓋だけで約1500万個あります。自治体だけで老朽化や不具合のある蓋を見つけるのは大変ですが、一般の人々がゲームに参加することで情報収集の効率が飛躍的に上がります」 自治体と協力して実証実験イベントも行ない、石川県加賀市では1日半で市内の全8000個、静岡県三島市では2日で全1万3000個の画像収集を完了し、データを自治体に提供。蓋を実際に修理する実績も増えている。 岡本さんのご近所散歩に戻ろう。マンホールを探しながら歩く傍ら、度々、道端の野草に吸い寄せられていく。「僕にとって野草は『道端にある草』が基本で、“道草”と呼んでいます。このヤブガラシの葉は辛味があり、おひたしにすると美味しい。その下のツユクサの葉はクセがなく、旨いんだよね。おすましにパッと落としてもいいんですよ」 約50年前からこの界隈を歩いてきた岡本さんは今回の体験を終え、こう語る。「普段の散歩では“道草”ばかりに目がいきますが、今回は様々なマンホールの蓋があることに気が付きました。投稿される地方の蓋デザインにも興味がひかれます。操作は難しくなく、楽しみながら社会貢献できるのは嬉しいですね」【プロフィール】岡本信人(おかもと・のぶと)/1948年生まれ、山口県出身。俳優、タレント。TBSドラマ『肝っ玉かあさん』『渡る世間は鬼ばかり』など数多くのホームドラマをはじめ、NHKでは大河ドラマ『草燃える』『おんな太閤記』『龍馬伝』、連続テレビ小説『春よ、来い』『マッサン』などに出演。バラエティー番組でも活躍。趣味は野草観察・採取。撮影/小倉雄一郎 取材・文/上田千春※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.17 07:00
週刊ポスト
近著『80歳の壁』、『老いが怖くなくなる本』が話題の和田秀樹氏
和田秀樹氏「80歳を超えて元気で過ごすには“我慢をやめる”ことが大切」
 100歳以上の人口は8万6000人を超える。国立社会保障・人口問題研究所によれば、現在65歳の人の4分の1が95歳まで生きると予測されている。まさに「人生100年」が当たり前の時代となった。 長い人生を輝かせるには「健康寿命」が重要になる。そのために節制や病気の予防に努める人は少なくないが、これまでの“常識”を考え直してみることも必要だ。「80歳を超えて元気で過ごすには、“我慢をやめる”ことが大切です」。そう指摘するのは、高齢者専門の精神科医としてこれまで6000人以上を診察し、近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)や『老いが怖くなくなる本』(小学館新書)が話題となっている和田秀樹氏だ。「食事やお酒の制限、年に一度の健康診断、多種類の薬の服用といった“健康志向”の効果はあっても60代まで。多くの患者さんを見てきた結果、70歳からはそうした我慢をやめ、好きなように生きたほうが80歳以降の人生が健康的になると考えています」 日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性は87.74歳だが、自立して健康的な生活を送れる健康寿命は男性が72.68歳で、女性は75.38歳。男性は9年間、女性は12年間のギャップがある。 もちろん、健康状態は人それぞれで、平均的な健康寿命を超えても元気な人は少なくない。そうした「80歳の壁」を越える人になるには、「70代まで続けてきた常識を捨てるのがよい」と和田氏は説く。「80歳を超えたら老いに抗うのではなく、老いを受け入れ、残った能力やその時にできることを大事にする。60代までは節制や運動に励んで生活習慣病を予防し、老いに抗うことも必要でしょう。 ただ、80代になればがんや認知症といった病気は誰でも発症します。ならば、がんにならないための我慢は意味がないと考えてもいいでしょう。過度に我慢をしてストレスを抱えて生きることは、むしろ身体にダメージを与えることに繋がります。それよりも老いを受け入れて我慢や無理をしない生活を送るほうが健康的です。そして、高齢者ではなく『幸齢者』を目指しましょう」※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.17 07:00
週刊ポスト
大阪名物・牛肉たっぷりの吸い物「肉吸い」
俳優・升毅がなじみの味を再現 七味や山椒が効いた牛肉たっぷりの肉吸いの魅力
 料理好きの俳優・升毅は、自宅マンションの隣室を借りて、仲間たちと芝居の話をしながら酒が呑める「居酒屋」を月2回ほど開催しているという。そんな升が、『週刊ポスト』の連載『居酒屋ますや』で、大阪名物でお肉たっぷりな「肉吸い」を振る舞ってくれた。升が肉吸いとの思い出やトリビアを語ってくれた。「中学から関西で過ごした僕にとって、肉吸いはなじみの味。肉吸いといえば大阪・千日前のうどん屋『千とせ』が有名ですが、二日酔いの芸人さんが『肉うどんの麺抜き』を頼んだのが発祥だとか。かつおだしと肉の旨味が調和したやさしい味は、二日酔いだけでなく酒のアテにもよし。『ますや』では、牛肉、ねぎ、豆腐と具材たっぷりで作ります。七味とうがらしと粉さんしょう、両方かけるのがオススメ」(升) さらに、升が作る肉吸いのレシピを紹介したい。大阪名物・牛肉たっぷりの吸い物「肉吸い」■材料(2~3人分)牛肉薄切り…200g長ねぎ…1本絹ごし豆腐…1丁水…1L白だし…大さじ6A[みりん…大さじ2、日本酒…大さじ1、しょうゆ…大さじ1、七味とうがらし…適宜、粉さんしょう…適宜■作り方【1】長ねぎは2cm幅のぶつ切りにする。豆腐は食べやすい大きさに切る。【2】鍋に水と白だしを入れて火にかけ、沸騰したら牛肉、豆腐の順に入れる。再度沸騰したらアクをすくい、長ねぎを入れる。[A]を加え、落としぶたをして中火で5分程煮て完成。【3】お好みで七味とうがらしや粉さんしょうをふる。【プロフィール】升毅(ます・たけし)/1955年生まれ。東京都出身。近畿大学在学中に演劇を始め、1985年に演劇ユニット「賣名行為」を 結成。1991~2002年は劇団「MOTHER」を主宰した。1995年に上京し、映画『八重子のハミング』(2017年)など出演作多数。YouTubeで動画公開中。https://www.youtube.com/channel/UC-DmGAqCEZMypBwgMncP1tQ撮影/阿部吉泰※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.16 19:00
週刊ポスト
【江戸文人の変人伝説2】風俗画家・英一蝶「パトロン滅ぼす遊び人」
【江戸文人の変人伝説2】風俗画家・英一蝶「パトロン滅ぼす遊び人」
 江戸時代の文化人の「奇抜エピソード」を紹介するシリーズの2人目は、『四季日待図巻』などの作品で知られる英一蝶(はなぶさ・いっちょう)。狩野派に学んだ正統派ながら、人々の生活を明るく描く風俗画家に転じ、作品は江戸幕府の中枢にいた大名たちからも人気を集めた。そんな元禄文化人が11年間にもわたって三宅島に流罪となった理由とは──『文人たちの江戸名所』(世界書院)の著者・竹内明彦氏が調査した。 * * * 最初に断わっておくと、英一蝶という画号は、彼が流罪を終え江戸に戻ってから名乗ったもの。流刑前の彼は多賀朝湖(たが・ちょうこ)の名を使っていたが、本稿では「一蝶」で通すことをご了承いただきたい。 古今東西、著名な芸術家に活動を支援するパトロンがいたケースは数多い。売れっ子画家の一蝶もその例に漏れず、有名大名から“将軍家のゴッドマザー”までもパトロンに抱えていた。 現代でもタニマチが有名俳優やプロスポーツ選手などを宴席に連れ回すことは珍しくないようだが、中には遊び癖に歯止めがかからなくなってしまう芸能人やスポーツ選手もいるらしい。一蝶はその究極のパターンだったようだ。一蝶の悪友・仏師民部(鎌倉時代から続く仏師の系譜で、後に一蝶とともに流罪となる)が記した懺悔録をもとに、江戸後期の戯作者・山東京山の随筆『一蝶流謫』が、その“遊びっぷり”を伝えている。 最初に一蝶の“餌食”になったのは掛川藩主・井伊直武。初代将軍・家康を支えた「徳川四天王」と称えられた井伊直政の孫で、言うまでもなく徳川幕府きっての名門である。だが、お坊ちゃま大名の直武は、一蝶らにおだてられるままに屋敷に芸者や幇間(男芸者)を呼んでドンチャン騒ぎ。それが終わると総勢を引き連れて吉原へ繰り出し、金銀をバラ撒いたという。ついには13万両あったといわれる井伊家の藩庫は空っぽに。そうした放蕩が響いたのか、掛川井伊家は直武の次の代で改易となってしまった(その後、養子を迎えて再興)。 そんなことがあったので、一蝶は幕府から“大名を堕落させる毒虫”としてマークされる。そして元禄六年(1693年)、時の将軍・徳川綱吉を揶揄する風聞が江戸の町に広まると、一蝶や民部を“アイツらならやりかねん”として捕らえてしまったのだ。しばらくして真犯人が捕まり一蝶らは2か月ほどで入牢を解かれるのだが、一蝶はそれに懲りるどころか遊びっぷりをエスカレートさせる。 自由の身になった一蝶はまたも幕府の有力者たちに近づき、今度は高家(幕府の儀式や典礼を担当する職)の六角広治をターゲットに。画力に匹敵する一蝶の“カネの嗅覚”は確かで、広治は大叔母にあたる桂昌院に一蝶を推薦する。桂昌院は将軍・綱吉の生母(3代将軍・家光の側室)にして従三位の高位にあった“将軍家のゴッドマザー”だ。東大寺や長谷寺など寺院の復興を推進し、当時の“建築ブーム”を起こした人物でもあった。幕府の金蔵を握る桂昌院がパトロンになったことで、一蝶と広治の遊びはさらに派手になっていく。 広治は一蝶から紹介された吉原の遊女を身請けするなど、放蕩生活にどっぷりハマる。挙げ句の果てに吉原で奉行所の役人と一悶着起こし、その様子が瓦版で江戸中に知られてしまい、高家の職を解任された。そのことが桂昌院の逆鱗に触れ、元禄十一年(1698年)にまたも一蝶や民部は捉えられてしまう。騒ぎを起こしたのは広治なのだが、幕府としては今度こそ「毒虫」を処分する絶好の機会。前回の“逮捕容疑”だった綱吉の風聞の件を強引にこじつけて、一蝶らを三宅島へ流罪としたのである。 三宅島に流された一蝶は、画材の入手に難儀しながらも吉原で遊んだ日々の様子などを次々と作品にする。だが、三宅島には一蝶の絵はほとんど残っていない。売れっ子画家の作品を求め、江戸から画商たちが荒波を越えて三宅島に出向き、あらゆる作品を買い取っていったからだという。 一蝶の流罪が解かれるのは宝永六年(1709年)のこと。この年の1月に将軍・綱吉が没し、家宣が第6代将軍に就く。それに伴う大赦によって、ようやく江戸に戻ることができた。すでに58歳を迎えていたが、それから画号「一蝶」を名乗り、数々の名作を生み出したのであった。※英一蝶(1652-1724)/京都生まれの画家。9歳頃に江戸に移り住み、狩野派を学ぶ。風俗画家に転身した後は「多賀朝湖」を名乗る。三宅島に11年の流罪後、英一蝶と改名。【筆者プロフィール】竹内明彦(たけうち・あきひこ)/1951年、東京都生まれ。1976年に早稲田大学文学部を卒業後、出版社入社。退職後に江戸歴史文化検定協会理事を務めた。近著『文人たちの江戸名所』(世界書院)では英一蝶のほか、松尾芭蕉、平賀源内ら、江戸文化人の異色エピソードとゆかりの地について、史料を紐解きながらコミカルに解説している。
2022.06.16 15:00
NEWSポストセブン
玉袋筋太郎さんが、生まれ育った西新宿で電動キックボードを楽しむ
電動キックボードで西新宿をドライブ 玉袋筋太郎が生まれ育った地元で初体験
 電動キックボードで車道をスーッと走る人の姿が都内では珍しくなくなった。2022年4月の道路交通法改正案の可決により注目され、実証実験に参加するシェアリングサービスの駐車場も急増中だ。自転車を趣味にするタレント・玉袋筋太郎さんが、生まれ育った西新宿で“初乗り”を体験した。「いやぁ、時代は変わったなあ! 『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』で言えば、マーティの乗り物がスケボーから、宙に浮くホバーボードに変わるみたいな(笑)。西新宿を自転車で走っていた子供の頃を思い出すと、半世紀近く未来へタイムスリップしてきたように感じます」 シェアリングサービス「LUUP」を利用し、玉袋筋太郎さん(54)が人生で初めて電動キックボードに乗り、生まれ育った西新宿をドライブした。 Luup社が提供するシェアリングサービス「LUUP」のポートは東京950、大阪280、横浜30、京都80の計1300以上(6月現在)。仙台でも小規模の実証実験が始まっている。利用者層は主に20~50代で男女比率は同程度。都内では渋谷付近などでの利用が多い。「“歩くとちょっと遠い、でも電車やタクシーに乗るほどでもない”10~20分程度の距離の移動が多いですね。平日は通勤通学や営業先への移動、休日は散策や観光などに利用されています」(同社広報) 特例措置下の電動キックボードの走行条件は、「LUUP」など事業者の公道実証実験の場合、法令上の位置づけは小型特殊自動車になる。普通自動車などの運転免許証の携帯は必須だが、ヘルメット着用は任意。通行区分は車道、自転車専用通行帯、自転車道、自転車が走行可能な一方通行路となり、最高速度は時速15キロだ。 なお、個人所有キックボードの場合は原動機付自転車の区分でヘルメット着用が義務付けられているなど、実証実験中の「LUUP」とは扱いやルールが異なる。 運転する前に運転免許証登録や交通ルールテストなど、安全対策が取られていることを玉袋さんは高く評価する。「昭和のガキの頃は『ローラースルーGOGO』というキックボードが一大ブームを巻き起こしましたが、学校で禁止されたので、キックボードはそれ以来。運転免許を持つ大人が交通法規とマナーを守って乗るLUUPのシステムはいいですね。車道を走るので、利用者も車の運転手もお互い気を付け合うことが大事です」 高層ビルでドロケーをしたりと小学生時代の遊び場だった副都心、出身小学校のあった界隈を走行した玉袋さんに、感想を聞いた。「電動キックボードは、車や自転車だと速く通り過ぎてしまう場所をちょうどいい速度で走ることができ、楽しかったです。自転車でイヤホンを付けて運転している人がいますが、あれはキックボードでもダメ。街の音、鳥のさえずりを聞いて運転してほしいですね」【プロフィール】玉袋筋太郎(たまぶくろ・すじたろう)/1967年生まれ、東京都出身。高校卒業後、ビートたけしに弟子入り。1987年にお笑いコンビ「浅草キッド」を結成。『町中華で飲ろうぜ』(BS-TBS)にレギュラー出演中。スナック好きとして知られ、一般社団法人全日本スナック連盟会長を務める。『新宿スペースインベーダー 昭和少年凸凹伝』など著書多数。撮影/小倉雄一郎 取材・文/上田千春※週刊ポスト2022年6月24日号 
2022.06.16 07:00
週刊ポスト
車を譲渡したら逆ギレされて“友情ジ・エンド” 恩をあだで返されたエピソード集
車を譲渡したら逆ギレされて“友情ジ・エンド” 恩をあだで返されたエピソード集
 良かれと思ってものを譲ったり、お金を貸しても、恩をあだで返すような仕打ちを受けることもある。人間関係の崩壊につながったトラブルの体験談を紹介する。●48才の弟は飲食店を複数経営し、それなりに裕福。そこに目をつけた女と結婚を前提に交際をスタート。彼女には8才の娘がいてフィギュアスケートを習わせていました。お金が必要になると弟から支援を受けていたようです。 が、コロナ禍のあおりを受け業績が落ちた途端、ほかに好きな人ができたと婚約解消。支援した数百万円の返済意思はないようです。弟は「娘のYちゃんが喜んでくれただけでおれは満足だ」と虚勢を張りますが、私は納得していません。(石川県・51才)●20代後半につきあっていた彼は、度を越す嫉妬深さ。私の部屋で昔のアルバムを見ていたら、「この男とはどんな関係だったんだ」といちいち目くじらを立てる。「私の思い出だから」と閉じようとすると、烈火のごとく怒りだした。「男と楽しそうに写っているのが許せないんだよ!」と怒鳴り、アルバムから次々に写真を引きは剥がすのです。写真の束を手に「預かっておく」と怒りの表情で持ち帰る彼に、何も言えずじまい。 そして、その凶暴な一面が頭から離れず修復不能に。でも別れ話はこじれ、最終的には友人に間に入ってもらいました。写真の返却をお願いしたのですが、「捨てちゃいましたよ。そもそも“過去の恋を忘れたいから”と彼女が私に破棄を依頼したんです」と大嘘をぶちかますタチの悪さ。 結局、一枚も手元に戻ってきませんでした。大切な青春の記録を失う結果になり、悔いが残ります。(新潟県・58才)●忘れもしない19才の春。父子家庭で育った私は年上の男性に弱く、バイト先の居酒屋の板長(40才)のグイグイ押しにストンと落ちてしまいました。彼のよさはマメなところ。部屋の掃除はもちろん、料理の手際も包丁さばきも抜群。 ところが、同棲が半年を過ぎたあたりから雲行きが怪しくなりました。あんなにニコニコしていた彼が靴を蹴散らし、着替えもせずに仏頂面でテレビとにらめっこ。 そして半月後、「すまん! 一緒に逃げよう!」。そういって土下座された後、麻雀仲間の借金150万円を肩代わりしたと聞かされたのです。しかも金利はトイチ(10日で1割の利息)だというじゃない。「なんとかするから!」とたんかを切った私は、勢いでキャバクラに入店。150万円を前借りし、彼に手渡し。「おまえには頭が上がらない」「最高の女だ」と恥ずかしげもなく褒めちぎっていたけど、すぐに化けの皮は剥がれ、トラブルの原因となった麻雀店にまた出入りし始めたのです。 一方、店に月30万円を返済していた私は、徐々に男の顔がネズミに見えてきて、同じ空気を吸うのが耐えられなくなりました。家に帰らなくなり、店の寮に移ることに。荷物を取りに行き、テレビに目を向けたままの男に向かって今後の返済について話し始めた途端、「その借金、全部おまえのもんだから」──。 そいつとはそれっきり。その後は6畳に二段ベッドが2つ並んだ狭い部屋と店との往復のみの毎日。懸命に働き、5か月で完済したのを機に、お店を辞めました。(広島県・45才)●「車の買い替えを検討している」と中学時代の友人M理に何げなく話すと、「ダンナの親友が車を欲しがっているんだ。処分代が浮くからもらってあげるよ」と上から目線の提案がありました。そんな輩に譲ってしまったのがトラブルの始まりでした。 鍵を渡した数日後、夜中に乗っていったのですが、私の名義で事故を起こされたらたまらない。そこで車を移動させた日に名義を変更するという取り決めをしていました。 そんな口約束を信じていた1か月後、念のために陸運局に問い合わせると私名義のまま。急いで彼女に連絡すると、「仕事が忙しかったみたい。すぐに手続きするように言っておくよ」とシレッ。きつい口調で文句を言うと「わかってるよ」とぶんむくれ。さらに1週間後、再度確認するもまだ名義が変わっていない。 さすがにブチ切れて「もう返して。車検も残っている車をタダであげた挙げ句、お礼の言葉もなければ約束も守らないって何!?」と電話で伝えると「ダンナに代わるから」とバトンタッチ。そして「いちいちうるせぇんだよ。変更するって言ってんだろうが」とスゴんできた。M理はフォローするどころか、「何回も電話してきてマジでウザかった!」と暴言を吐き、ガチャ切り。30年以上の友情はジ・エンド。車はもちろん返ってきませんでした。(神奈川県・47才)●父は6人きょうだいの長男。祖父が起業した建設会社の跡を継ぎました。バブル期に事業を拡大した頃、末の弟が飲食店を開きたいと父に保証人を依頼。銀行から6000万円の融資を受けました。 その後、叔父の飲食店は倒産し、父の会社も破綻。そのうえ叔父の保証人だった父は、6000万円を肩代わり。それについて父や私が叔父に意見しても「自己破産したんだからしょうがない」とのらりくらり。「少しずつでも返していく気はないのか」と問い詰めても、「ない袖は振れない。保証人になるってそういうこと」と開き直る。 現在、いとこの子供は私立中に通ってバイオリンを習い、いとこの妻は私と会うとあわててダイヤの指輪を半周させて隠す。「あのお金があれば」と思うと血圧が上がるから考えないようにしているけどね。ほんと体に悪いよ。(埼玉県・45才)●年金暮らしの母には5つ年上の姉がいますが、18年ほど前に伯母の夫の会社が傾いた際、母が300万円を貸しました。そのときはたまたま大金が手元にあっただけで、地に足をつけて生活している伯母と、自由奔放で気まぐれな母。実際は長いこと伯母のお世話になりながら母は生きてきたのです。 若い頃から荒れた生活を送り、生活に困ると伯母の家に子供連れで転がり込んで居候。家事もせず、子供を置いてド派手なファッションに奇抜なメイクで連日、夜の街に繰り出すという日々。それでも伯母は母を見放しませんでした。 ところが3年前、夫が認知症になり、介護に追われていた伯母はがんを発症。現在は抗がん剤治療を受け、夫の看病もヘルパー頼りという状況。そんな伯母に母は回収不能になる前にと「貸した300万円を一括で返して」と言ってのけたんです。 伯母は「分割にしてほしい」とお願いしたそうですが、「回復が望めないお姉ちゃんに今後、返せるとは思えない」と言い放ち、今後の治療や生活に充てる予定だった貯金で返済してもらったようです。コロナ禍だからと一度も見舞いに行かず、世話になった伯母に恩をあだで返すような仕打ち。いとこたちに顔向けできません。(静岡県・55才)イラスト/ひろいまきこ※女性セブン2022年6月23日号
2022.06.15 19:00
女性セブン
作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)
【逆説の日本史】世界史の流れを変えた「ドレフュス事件」と「大逆事件」の共通点
 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第九話「大日本帝国の確立III」、「国際連盟への道 その11」をお届けする(第1344回)。 * * * 徳冨健次郎、いや、この場合は小説家徳冨蘆花の「手本」となったと考えられるフランスの小説家エミール・ゾラの「ドレフュス事件」への対応とは、どのようなものだったのか? それ以前に、そもそも「ドレフュス事件」とはいったいどんな事件か? 概略を紹介すれば次のようなものである。〈1894年、フランスに起こったスパイ事件。ユダヤ系のドレフュス(A.Dreyfus)大尉は、ドイツのスパイとして終身刑に処せられたが、1896年に真犯人が現れ、軍部がこれを隠匿。これに対し、小説家ゾラや知識人・進歩的共和派が弾劾運動を展開、政治的大事件となり、1899年、ドレフュスは釈放され、1906年に無罪が確定。〉(『デジタル大辞泉』小学館刊) 一八九四年は明治二十七年。日清戦争が勃発した年であり、蘆花は明治元年の生まれだから二十七歳。結婚し、短編小説を『國民新聞』に発表して作家生活のスタートを切った年だ。その年に起こったこの事件は日本であまり有名では無いのだが、世界史の流れを変えたきわめて重大な事件である。 ことの始まりは、フランス革命にある。フランス革命によってなにが変わったか? それまで差別されていたユダヤ人が、国家公務員になれるようになった。「革命の精神は自由・平等・友愛」だからだ。 思い出して欲しい。徳川家康と同じ年に死んだイギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピア作の戯曲『ベニスの商人』には、シャイロックというユダヤ人の強欲非道な金貸しが登場する。この戯曲もユダヤ人への差別を助長していたのだが、なぜそうなるかと言えば、これもすでに述べたと思うが、キリスト教社会ではユダヤ人を「イエス様殺しの重罪人」と考えていたからである。 念のため繰り返すと、イエスの処刑を求めるユダヤの群衆に対し、ローマ帝国から派遣されてきた総督ピラトは何度も殺してよいのかと念を押すのだが、ユダヤの民衆は激高して「その血(の責任)は、我々と我々の子(子孫)らの上にかかってもいい」と叫んだので、ピラトはやむを得ずイエスを死刑執行人に引き渡した。そのように『新約聖書』に明記してある(「マタイによる福音書」)。 いくらなんでも、自分たちはともかくなんの関係も無い「子孫」まで責任を持つなどと言うはずが無い。他の民族と同じで、ユダヤ人も人の子の親である。しかし、聖書に記載されていることは「すべて真実」というのがキリスト教徒の信仰だから、ローマ帝国に母国(古代イスラエル王国)を滅ぼされヨーロッパ各地に散って在仏ユダヤ人、在独ユダヤ人、在英ユダヤ人などという形で生き続けたユダヤ人ユダヤ教徒は、激しい差別を受けた。 彼らは「イエス様殺し」であるから、市民権が無く土地の正式な所有者にもなれないので、選べる職業は限られた。いまでも芸能界や法曹界など大きな意味での「第三次産業」がユダヤ人の得意分野であるのも、こうした事情があったからだ。とくに金融業に関してキリスト教は(じつはユダヤ教もイスラム教も)、人にお金を貸して利息を取る行為を「悪」だと規定していたので、まともなキリスト教徒は金融業をしなかった。 だから逆に金融業者はユダヤ人しかいない状況になり(ユダヤ人同士でも金融業は「悪」なのだが、キリスト教徒に貸すなら問題無い。彼らは「兄弟」では無いからだ)、残念なことだが差別されている人間は差別している人間に対して冷酷非情になる。これに対して、差別する側からは「イエス様殺しの悪人ども」との偏見が重なるものだから、戯曲『オセロ』を書いて有色人種に対する差別を厳しく糾弾したシェイクスピアですら、ユダヤ人シャイロックを極悪人として描いたのである。 日露戦争においてユダヤ人勢力が大日本帝国を支援するきっかけとなったロシアのポグロムも結局根底にあるのは、この「その血の責任は、我々と我々の子孫の上にかかってもいい」(現代では、この一節は「血の呪い」と呼ばれている)である。つまり、「あいつらは子孫も責任を取ると言っていた」、それならば「略奪してやれ」などという形で迫害を受けたのである。 しかし、革命によってフランスではすべてが変わった。形の上では差別が無くなり、ユダヤ人も国家公務員になれるようになった。ところが、これに反感を持っていたのがキリスト教会関係者である。また保守的な軍人のなかにも、国家の安全にかかわる部分にユダヤ人が参入してくるのを苦々しく思っている連中もいた。アルフレッド・ドレフュス大尉はユダヤ人である。そこで、陸軍内部で外国への機密漏洩事件が起こったとき、まともな捜査も無く「あいつが犯人に違いない」ということになり、いい加減な裁判(軍法会議)であっという間に有罪になり、無実のドレフュスは終身刑になった。 ところが、国家機密の漏洩は国家にとって重要な案件であるため、その後も捜査を続けていたフランス陸軍情報部は本当の情報漏洩者つまり真犯人を突き止めた。しかし、陸軍大臣を頂点とする陸軍上層部は真犯人逮捕に待ったをかけ、この一件をすべて闇に葬ろうとした。さすがにそれはまずい、と考えた内部告発者がいたのだろう、情報が外に漏れ大騒ぎになった。そこで、陸軍は真犯人のフェルディナン・ヴァルザン・エステルアジ少佐を軍法会議にかけたのだが、なんとスピード審理であっという間に無罪が宣告されたのである。 ゾラが立ち上がったのはこのときだ。パリの新聞『オーロール』に「我、告発す」という長文の抗議文を寄稿し、陸軍の不正を糾弾してドレフュスの無実を訴えた。この事件の第一の教訓は、これほど不正が明確な案件にもかかわらず、ドレフュス大尉の無実が確定するまで十年以上かかったことだ。しかも、その間真犯人は国外逃亡してしまい、結局罰を受けなかった。 また糾弾派は長い間「ドレフュスを有罪とした証拠を出せ」という形でこの裁判の不正を追及したが、軍は国家安全にかかわる機密情報が含まれているとして資料の公開を拒否した。ところが、最終的に資料が公開されてみるとそこには機密情報などまったく無く、もちろんドレフュス有罪の証拠など影も形も無かった。つまり、機密情報ということで軍あるいは政府の秘匿権を安易に認めると不正の温床になることがわかったのである。これが第二の教訓だ。ゾラにはなれなかった蘆花 さらに、これがなぜ「世界史の流れを変えた重大事件」なのかと言えば、あるユダヤ人に「結局、ユダヤ人差別は決して無くならない」という強烈な思いを抱かせたからである。その男の名をテオドール・ヘルツル(1860~1904)という。ハンガリーのブダペストで生まれ、オーストリアに移住しジャーナリストとなった。皮肉なことに、彼は若いころユダヤ人はユダヤという出自にこだわらず積極的に在住している国々に同化することをめざすべきだ、という考え方の持ち主だった。 ところが、その彼がドレフュス事件の取材で自由平等の国であるはずのフランスにも根強く残る反ユダヤ主義を身をもって体験した結果、その考えが百八十度変わったのである。つまり、ユダヤ人は在住国への同化をめざすべきでは無い。そんなことをしてもキリスト教に基づく偏見は絶対に根絶されない。つまりユダヤ人が真の自由と平等を勝ち取るためには、ユダヤ人の国家を建国するしかない。そのように考えるようになったのだ。その最初の著書というかパンフレットが、『ユダヤ人の国─ユダヤ人問題の現代的解決法』(1896)である。 この考え方をシオニズム(英語ではザイオニズム)、その運動家をシオニストと呼ぶ。なぜそう呼ぶかと言えば、その建国予定地が当時はパレスチナと呼ばれていた、かつて古代イスラエル王国があった場所だったからである。唯一の神であるヤハウェがユダヤ民族に与えた「約束の地」イスラエル、それを象徴するのがダビデ王そしてソロモン王が宮殿と神殿を築いたシオンの丘である。 ヘルツルは各国に分散して在住しているユダヤ人たちに呼び掛け、第一回シオニスト会議も開催した。ただしこの運動は、ヘルツルの段階では夢物語に近いものだった。ヘルツル自身がそうであったように、在住国で一定の地位を築いているユダヤ人も大勢いた。シオニスト会議は各国に散らばっているユダヤ人同士の連帯を深める意味はあるものの、古代イスラエル王国にはローマ帝国が入植させたパレスチナ人が住んでいることもあり、この計画は現実的では無い、というのが大方の評価であったからだ。 ところが、帝国主義が世界に蔓延するなか、中東という獲物を手に入れようとしたイギリスは、ライバルのフランスを倒すためにシオニストの主張を認めた。イギリスの外相アーサー・ジェイムズ・バルフォアの「バルフォア宣言」(1917年)である。しかし、この段階でも少なくともフランスはシオニズムを認めておらず、夢物語から少し現実性を帯びてきたものの多くの人々は新生イスラエル国ができるなど予想もしていなかった。 ところが、その流れを完全に変えたのがナチスドイツによるユダヤ人大虐殺つまりホロコーストである。虐殺された在独ユダヤ人のなかには、第一次世界大戦で祖国のために戦い勲章を受けた軍人すらいた。そこで「やはりシオニズムが正しい」と多くのユダヤ人が確信するようになった。 それでもヨーロッパ諸国、つまりキリスト教国が積極的にシオニズムを支援しなければやはり夢物語のままで終わっただろうが、彼らにも根深いユダヤ人に対する偏見がこうした悲劇を招いたという反省はあった。これもすでに述べたことだが、当時のキリスト教会はホロコーストを支援しないまでも積極的にやめさせようとはしなかった。それゆえ二〇〇〇年つまり二十世紀最後の年、当時のローマ法王ヨハネ・パウロ二世は初めてイスラエルを公式訪問し、そうした態度に反省の言葉を述べたのである。 このような流れもあって、ユダヤ民族はイスラエル国の再建に成功した。しかし、この建国がパレスチナ問題という新たな紛争を生み、それがいまも続いているというのはご存じのとおりである。ドレフュス大尉事件が世界史の流れを変えた事件だというのは、こういうことなのである。 さて、徳冨蘆花はこの事件にどんな影響を受けたか? 二人の共通点は、ともに小説家でありキリスト教徒であることだが、これまでの説明でお気づきだろうか。じつはドレフュス事件は、フランスあるいはキリスト教社会における「大逆事件」なのである。ドレフュスが告発されたのは直接的にはスパイ容疑だが、その根底にはもともと「イエスを殺した民族」であるユダヤ人に対する反感がある。天皇という「神」を「殺そうとした」と告発された幸徳秋水、「イエスを殺したユダヤ民族」の「子孫」であるドレフュス、少なくとも蘆花の眼にはこの共通点が映っていたはずだ。 しかも、後のホロコーストのとき、ヨハネ・パウロ二世も認めたように多くのキリスト教徒がこれを「傍観」していた。それも幸徳に対して多くの日本人が取った態度と同じである。そしてゾラはキリスト教徒であるにもかかわらず、「大逆の徒」であるドレフュスを擁護し陸軍に抗議し社会正義を求めてフランス人の良心に呼びかけた。そして結果的にドレフュスを冤罪から救っただけで無く、陸軍そして国家の横暴に対して歯止めをかけた。 蘆花は最終的にはこれをめざしていたのだろう。名指しこそしていないものの、この事件を仕掛けたのは陸軍のトップで総理大臣にまでなった桂太郎である。ドレフュスは陸軍最高首脳部の陰謀で陥れられた。おそらく幸徳も同じではないか、という危惧が蘆花の心中にあったのは間違いあるまい。 しかし、蘆花は結局ゾラにはなれなかった。それは当時の大日本帝国には「ロシアに勝つ」という巨大な国家目標があり、それは有色人種の国家が初めて白色人種の国家を倒すという点で人類史の上でも大きな意義があったことからだ。だからこそ、その流れに乗った桂太郎は「勝者」となった。しかし、目的はすべての手段を決して正当化するわけでは無い。「大逆事件」いや「大逆事件の捏造」は、あきらかにその後の日本を誤った方向に導いた。この点では桂太郎の罪はきわめて大きいと言わざるを得ない。 ちなみに、「主犯」とされた幸徳秋水は帝国主義だけで無くキリスト教も「抹殺」すべきだと考えていた。(第1345回につづく)※週刊ポスト2022年6月24日号
2022.06.15 19:00
週刊ポスト
『メイド オブ オーガニクス ホワイライト DE ロールオンEX』
肌にやさしく汗のにおいをしっかり抑える オーガニックのロールオン
 ヘア&メイクアップアーティスト山本浩未さんが、オトナのための美容情報を紹介。今回は、「疲労臭」を抑え、わきの黒ずみもケアできるデオドラントを教えていただきました。 * * * 大人女子は季節を問わず汗に悩まされますが、これからの季節は特に深刻。なかでも気になるのがわき汗。汗染みなどに加え、においも大問題ですよね。最近は、ストレスや暴飲暴食による「疲労臭」という、アンモニアに似たにおいも注目されています。 そんな汗のにおい問題に着目したロールオンが、『メイド オブ オーガニクス ホワイライト DE ロールオンEX』。人気のアイテムがリニューアル発売されたので使ってみたところ、快適でした! リニューアルのポイントは、新たにノニ由来の消臭成分を配合したところ。ノニは健康ドリンクとして一時ブームになりましたが、悪臭のもとを抑制する効果もあるそう。 さまざまな成分が皮膚から浸透する「経皮吸収率」は、腕の内側を1とした場合、わきは3.6倍なのだそう。それを知ってから、私は制汗剤などの成分に気をつけています。このロールオンは、100%天然由来成分を使用。オーガニック成分の配合率は95%以上で、厳しいオーガニック認証のひとつ、「ACO」を取得してるの。そこもお気に入りのポイントです。 上手な使い方は、朝、汗をかく前に塗ること。液が乾くとサラサラになるので、ちょっとおいてから服を着ます。私は急いでいるときは、ドライヤーの冷風をあてることも。日中、汗を多めにかいた日は塗り直しを。その際は、擦らずハンカチでそっと押さえて汗を拭い、つけ直します。成分がやさしいので、気になったときに何度塗り直ししても安心。 ぴたっと密着力が高いロールオンタイプで、香りはほんのりナチュラル。美白成分配合でわきの黒ずみにも効果的と、使い勝手もバッチリ。メーカーのたかくら新産業は、「家族が毎日使えるオーガニック」をモットーにした製品作りが信頼できる会社。機能と安心の両方がかなうアイテムを探している人にも、おすすめですよ!【プロフィール】山本浩未/ヘア&メイクアップアーティスト。1964年生まれ。「今すぐ実践できる」を発信する、メイクの第一人者。※女性セブン2022年6月23日号
2022.06.15 16:00
女性セブン

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