スポーツ

野村克也氏 育てた指導者の数は王・長嶋に勝ったと自負する

 10月24日、野村克也氏は新著『オレとO・N』(小学館)を上梓した。長嶋茂雄と王貞治、両氏との因縁や名勝負を軸に、プロ野球がたどってきた歴史をひもときながら、独自の野球観を語るファン必読の好著である。野村氏がONについて語る。

 * * *
 私は記録でも記憶でもONに敵わなかったかもしれないが、一つだけ勝ったと自負していることがある。「人を遺した」ことだ。「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すを上とする」という格言がある。財産や立派な仕事を遺すより、人材を育てることの方が尊いという意味だと私は捉えている。

 例えば、選手や監督・コーチとして川上さんの薫陶を受けた人間からは、ONをはじめ藤田元司さん、森祇晶、土井正三、高田繁、堀内恒夫など、多くの監督経験者を輩出している。コーチとしては黒江透修、淡口憲治など枚挙にいとまがない。

 その点では比べるのもおこがましいが、私のもとからも数多くの指導者が育っている。古田敦也を筆頭に、古くは古葉竹識、尾花高夫、小川淳司、渡辺久信。コーチでは伊東昭光、吉井理人、伊藤智仁ら。今年、巨人の戦略コーチとして優勝に導いた橋上秀樹も同じだ。

 ではONはどうか。確かに長嶋からは中畑清、西本聖らが巣立っているし、王からは秋山幸二が育ってはいる。だが、ごく少数だ。今後はもしかしたら遺した人材の数で抜かれるかもしれないが、少なくとも現段階では私は自分を褒めてやってもいいと思っている。なぜこんな話をするのかといえば、これが現在のプロ野球の危機に直結していると考えるからだ。

 今年のパ・リーグを制したのは日本ハムの栗山英樹監督。彼も私の教え子だ。就任1年目で優勝なんて、栗山からすれば私のことがバカに見えているかもしれないが(笑い)、それはさておき、彼に感心した点は一つだけだった。優勝インタビューで、アナウンサーから「どんな采配をしたか」と聞かれた際、「ボクは何もしていません」と答えたことだ。これを聞いて、私は正直だなと思った。

「何もしていない」のは事実だ。だが彼だけではなく、現在の監督全員にいえることだ。これは人を遺せなかったONや、私も含めた我々の世代の責任も大きいが、由々しき事態である。

 世間は日本シリーズで盛り上がっているようだが、私にいわせれば、このポストシーズンの試合はつまらなくて仕方がない。こんな時期にオープン戦をやるんじゃない、といいたいくらいのレベルである。

 どのチームも判で押したような戦い方ばかり。ノーアウトでランナーが出れば必ずバント。決まったタイミングで同じ投手が出てきて終了。こうなれば次の交替は誰、この打者へのサインは何、などと素人が考えても展開がわかるようになる。こうした戦い方を“アホ采配”というのだ。

 特に最近は「勝利の方程式」という決まり文句を使うが、私はこれが一番気に入らない。勝負事に方程式などあるわけがない。マスコミの責任も大きいが、そんなものがあると考えるから型に嵌めてしまい、勝負の醍醐味を失わせるのだ。

 常々私は、日本における野球の基本は「将棋」にあると考えている。将棋は目先の手だけでなく、その先の相手の手を考えねば勝てない。こうした戦術の読み合いこそが、面白さに繋がっているのである。

 アメリカの野球はいわば「ポーカー」。次に何を引くかが分からない賭けのようなもので、戦術の読み合いよりも力と力のぶつかり合いを優先する。日本人にはこうした力勝負は無理だ。だからこそ日本のやり方、戦術の読み合いこそが面白さに繋がるというのに、それが簡単に読めるような“アホ采配”では、面白くなるわけがない。

※週刊ポスト2012年11月9日号

関連記事

トピックス

ニューヨーク晩餐会に出席した真美子さん(提供:soya0801_mlb)
《どの角度から見ても美しい》真美子さん、NY晩餐会で着用“1万6500円イヤリング” ブランドが回答した反響「直後より問い合わせが…」 
NEWSポストセブン
もともと報道志向が強いと言われていた田村真子アナ(写真/ロケットパンチ)
“TBSのエース”田村真子アナが結婚で念願の「報道番組」へシフトする可能性 局内に漂う「人材流出」への強い危機感
週刊ポスト
逮捕された羽月隆太郎選手(本人インスタグラムより)
広島カープ・羽月隆太郎容疑者がハマったゾンビたばこ…球界関係者が警戒する“若手への汚染” 使用すれば意識混濁、手足痙攣、奇声を上げるといった行動も
NEWSポストセブン
米・ニューヨークで開催された全米野球記者協会(BBWAA)主催の晩餐会に大谷翔平選手と妻の真美子さんが出席(左・時事通信フォト)
「シックな黒艶コートをまとって…」大谷翔平にエスコートされる真美子さんが晩餐会に入る前に着用していた“メイドインジャパン”なファッション
NEWSポストセブン
高市早苗首相(写真/Getty Images)
高市早苗首相、“大義なき解散”の影響は皇族方にも “後任候補見つからず引退撤回”の皇室典範改正協議の中心メンバー・額賀福志郎氏は「加齢で記憶力に不安」 
女性セブン
アワードディナーに2年ぶりに出席した大谷翔平と真美子さん
《車の座席に向かって手を伸ばし…》「大谷翔平は間違いなくシャイだ」妻・真美子さんへの“大谷式エスコート”に海外ファンが驚いた理由「置いてけぼりみたい…」
NEWSポストセブン
Number_iの平野紫耀
《これだと次回から裏口から出すよ!》平野紫耀の全身ヴィトン姿にファン殺到…“厳戒態勢”の帰国現場で見せた“神対応”と現場の緊迫感
NEWSポストセブン
国民民主党の公認を受けて出馬する予定だった今井優里氏(25)が立候補を辞退(Xより)
《京大卒でモテ系ファッションの才色兼備モデル》今井優里氏(25)、衆院選立候補ドタキャンの裏側「直感を信じる!」“意識高い系”だった大学時代
NEWSポストセブン
神宮寺勇太
Number_i・神宮寺勇太「絶対に匂いを嗅ぐんだから!」ファンらが到着ロビーに密集して警備員が警戒…去り際にスターが見せた別格の“神対応”
NEWSポストセブン
米・ニューヨークで開催された全米野球記者協会(BBWAA)主催の晩餐会に大谷翔平選手と妻の真美子さんが出席(共同通信)
《大谷翔平と晩餐会に出席》真美子さんが選んだイヤリングは1万6500円! 庶民的プライスながらセンス溢れるさすがのセレクト
NEWSポストセブン
トランプ大統領(左)は今年4月に訪中し習主席と会談する予定(写真/AFP=時事)
《米国が台湾を見捨てる日》4月の首脳会談で懸念される“米国は中国が台湾領有を進めても手を出さない”という密約 中国が描く「台湾総統を拘束し政権転覆」のシナリオ
週刊ポスト
昨年7月に遺体で発見された女優・遠野なぎこ(右・ブログより)
遠野なぎこさん(享年45)が孤独死した自宅マンションの一室に作業服の「特殊清掃」が…内装一新で「新たな入居者の募集へ」
NEWSポストセブン