今年3月、吉川さんは来年公開の映画『さらば あぶない刑事』の役作りでバイク運転の練習中に左足首を骨折しました。しかし、本来なら中止になりかねない全国ツアーを片足立ちでこなして、骨折した左足で得意のシンバルキックを披露したというから驚いてしまいます。そんなプロ意識とタフさは、演じている財前にも乗り移っている気がするのです。
『モニカ』での鮮烈なデビューから30年が過ぎ、吉川さんは今年で50歳になりましたが、そのギラギラした情熱や、少年のような純粋さは、まったく変わっていません。東日本大震災のとき、炊き出しや慰問するだけの芸能人が多い中、「歌では本当の支援にならない」と言って、ひたすらガレキ撤去作業を手伝い続けたように、大企業の部長を演じていても、どこか「やんちゃだけど純粋で心優しい」近所のガキ大将のような印象があります。
ガキ大将のような一方で、吉川さんは進学校の出身であり、芸能事務所に第三者を装って「広島にスゴイ奴がいる」と書いた手紙を送り、デビューを勝ち取った頭の良さと行動力の持ち主。それだけに、財前のようなエリート社員役の素地があるのでしょう。しかし、私としては、紅白歌合戦でギターに火をつけたり、危険な無人島でサバイバル生活をしたり、シンバルキックで3度骨折するなどの吉川さんらしい破天荒な姿を、財前にも見せて欲しいと思ってしまいます。
【木村隆志】
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』(TAC出版)など。