■『消えた声が、その名を呼ぶ』(劇場公開中/ドイツ・フランス・イタリア・ロシア・ポーランド・カナダ・トルコ・ヨルダン合作)
舞台は1915年の第一次世界大戦中。オスマン帝国で起きたトルコ人による100万人のアルメニア人虐殺事件をテーマに、ひとりの男が生き別れた家族を探して地球半周の旅に出る壮大なロードムービー。
「トルコにおけるタブーをトルコ系ドイツ人の監督が、偏らずフェアに描いていることがこの映画の良さ。どの民族であるかではなく、個の“人”としての心境や立場に焦点を当てて、トルコ人もアルメニア人も、それぞれいい人もいれば悪い人もいるとフェアに描いている。偏見なく理解を示すことが重要なのだと示唆します。また、憎しみに勝るのは強い愛であることを学べる映画です」
最後は、中井さんが「2015年を語る上で観ないという選択肢はない。年末年始関係なく、必ず観るべき1本」と豪語するこの作品。
■『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年/オーストラリア)
舞台は物資と資源を武力で奪い合う荒廃した近未来。独裁者に捕らえられた大勢の妻たちを元警官のマックス(トム・ハーディ)が手を貸し逃す。それを車で追う独裁者との壮絶なカーバトルを描く。
「話は“事情を抱えた人たちがトラックに乗って、移動する間に起きるドラマ”と、ものすごくシンプル。だけど実はさまざまな要素が盛り込まれています。動く人や物を撮る初期の映画スタイルに原点回帰し、意識的にCGもほぼ使わず、映画が映画たる原初的体験を描いている。それは、現在の映画作りに対してのアンチテーゼでもあります。
それに加えて、今の世のヒーロー不在や、男性社会おける女性解放といった時流も反映しつつ、直球かつ破格のアクションで魅せ、娯楽映画的な興奮もきっちりつめこんでいるところが本当に傑作だと思います。何度も繰り返し観てしまう衝動があります。数十年前にマッドマックスシリーズを撮ったおじいちゃんが、圧倒的なクオリティで作品を更新しました。これを観ないことには2015年は語れないし、2016年も迎えられない。そういう1本です」