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【著者に訊け】開高健賞最終候補作『無戸籍の日本人』

【著者に訊け】井戸まさえ氏/『無戸籍の日本人』/集英社/1700円+税

 無戸籍者からの電話相談(24時間対応)や戸籍の取得手続きの同行で全国を飛び回り、これまで会った無戸籍者は1000人以上という中での執筆だった。現在、5人の子供を育てるNPO「親子法改正研究会」代表で元衆議院議員の井戸まさえ氏は、4番目の子が『無戸籍の日本人』になりかけた〈当事者〉でもある。

 そんな事態がなぜ起きるかといえば、原因の一つに〈民法772条〉がある。現民法では離婚後300日以内に生まれた子供の父親は元夫と〈嫡出推定〉され、元夫と交渉を避けたい等々の理由で出生届を出せないケースが少なくないのだ。

 現状で約1万人とも言われる無戸籍者の事情は万者万様であり、本書では井戸氏らが戸籍取得に協力してきた実例を法や制度の壁と併せて多数紹介。一方で彼女はこうも書く。〈「性」「国籍」「出自」「貧困」「搾取」「犯罪」「女性」──〉〈この問題の根っこには、普段、日本人が見たくないもの、語りたくないもの、つまりは「タブー」がある〉と。

 本作は昨年の開高健ノンフィクション賞の最終候補作である。

「政治家って一度なってしまうと、何をやっても票のためだといわれ、逆差別されちゃうんです(笑い)。だから、元議員でも偏見なく審査してもらえたことが嬉しかった。皆さんにも無戸籍者の実像を知ることから始めてもらえるよう、法律用語もわかりやすく書いたつもりです」

 NPO発足当初は、彼ら無戸籍者を〈「存在しない人」から、「名前は明かせぬものの確かに存在する生身の国民」として「可視化」〉することを目指したといい、本書の目的もそこにある。

 例えば27歳の時に電話をしてきた〈雅樹〉という男性は、14歳の時、実母は産後死に、戸籍もないと宣告されたという。15歳までに高校の全教程を養母から学んだという彼は、戸籍がないために水商売を転々とし、ホストをしていた。

 養母は火事で死んだらしく、彼は手がかりを全て失って氏を頼ったのだ。この場合、〈就籍〉という手続きが取られるが、役所は彼に〈日本人であることの証明〉を求め、両親や養母の素性も定かでない彼の就籍は今なお実現していないという。

 また、母親が分娩費用を工面できずに無戸籍に陥り、妊娠中の恋人の子供にまで〈連鎖〉が及ぶことを恐れる〈百合〉。横暴な夫と当時60代の自分の母親が関係を持ち、5人の子供を残して実家を追われた母親を持つ〈冬美〉など、その人生模様の過酷さは想像を絶する。

「彼らの多くは小学校すら通わずに育ち、免許も住民票もパスポートもないので、仕事や生き方の〈選択肢〉が限られてしまうんです。

 あえて無戸籍の人を大別すれば(1)772条の〈300日ルール〉関連が7~8割、(2)貧困やネグレクト関連が1~2割、他に(3)親が戸籍制度に反対、(4)失踪や記憶喪失や認知症、(5)皇室関係がごく少数というのが私の実感。(1)と(2)に関しては、私たち国民も含めて見て見ぬふりをしてきた国家ぐるみのネグレクトだと思う。

 仮に報道されても親が悪いとか不倫だろうとか、法の歪みが貞操観念や倫理といった見えない圧力に封じこまれてしまう。19世紀から続く落とし穴が誰の前にも口を開けているんです」

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