国内

ネットの反差別運動の歴史とその実態【3/4】

◆「しばき隊リンチ事件」と身バレ騒動

 敵か味方の認定については、界隈の中心人物の判断を待つこととなる。それこそ野間や李といったあたりの認定を待つ。いざ認定がくだったところで一斉攻撃が開始する。本来リベラルというものは多様性を重視するはずだったのだが、結局は1960年代の左翼と同様の行動様式で内ゲバを繰り返し、仲間が去っていくのだ。その最たる例が「しばき隊リンチ事件」である。2014年12月16日に発生した件で現在も裁判が継続中だが、概要をザッと述べる。

 この件はカウンター内部で発生し、ネトウヨが関わっているわけではない。いわゆる内ゲバである。被害者はカウンター活動をしていた大学院生・Mで、加害者はLである。Lが右翼からカネを受け取っていたのでは、という噂を聞いたMはカウンター活動のメンバー・Bにそのことを相談。BがLに「Mから聞いたのだが…」とその噂話をしたところLは激怒。12月16日、大阪・北新地の飲み屋にMを呼び出し、1時間にわたり店外でLがMに暴行を加えた事件だ。その場に居合わせたカウンターのメンバーは、この暴行を止めず、救急車を呼ぶこともなく店の中で酒を飲み続けた。この事件発生後、カウンターメンバーによる口封じと隠蔽工作が開始する。そこには、大学教授らも関与が疑われている。Mも自身がこのことを告発した場合、カウンター活動を阻害することになると考え、警察に訴え出ることを躊躇していた。仲間と活動を一旦は守ろうとしたのだ。だが、その後のメンバーによるデマ扱いなどもあり、裁判を起こした。

 この際、野間によるMの本名晒しや、関西学院大学教授・金明秀による「M(実際は実名)、おまえ、自分を守ってもらってるっていう自覚はあるのか? 自分の彼女を守ってもらってるっていう自覚はあるのか?」という恫喝めいたツイートもあった。予め身の危険を感じていたMは靴の中にICレコーダーを仕込んでおり、生々しい暴行の様子はネット上に文字起こしもされて残っている。

 この件で批判されたのが、カウンター界隈で発生したハッシュタグ「#Lは友達」運動である。これはカウンターが一致団結し、Mを孤立化させる効果をもたらす効果があったとされ、卑劣な行為と断じられるようになった。この頃になると、反差別界隈から抜け出す者も増え、在日からも批判が寄せられるようになる。さすがにリンチは一線を越え過ぎたのである。場合によってはMの命にもかかわる事態になっていたのだからそれも当然だろう。反差別界隈に批判的な者に情報提供をする元カウンター参加者も出るようになっていった。

 2015年11月~12月の動きとして大きかったのは「闇のキャンディーズ」身バレ騒動である。これは、カウンター活動をしていた「闇のキャンディーズ」が、在特会系のデモに参加する女性に対し「豚のエサにしてやる」などと暴言を吐いていたところ、新潟日報の部長であることがバレてしまった件だ。この時の身バレを追及したのが新潟水俣病訴訟等で知られる新潟在住の弁護士・高島章である。ぱよぱよちーんのKに続く2人目の身バレ、しかもまたもや50代と見られる定職に就いた男性である。結局キャンディーズは異動させられ、2016年3月に会社を去っている。反差別運動にかかわり、過激化し過ぎてしまった結果会社を去った人物はもう一人いる。デモ等で使うポスターやフライヤー等のデザインに関わっていたbcxxxである。優秀なデザイナーとして知られていたが、彼も身バレし、職場に抗議が殺到し会社を去ることとなった。また、後に「チャンシマ」も大手証券会社の部長であることがバレ、同社に対して街宣がかけられる事態となった。その後、彼のポジションには別の人物が就任した。

 反差別の運動をすること自体は何も悪くないのだが、「正義」の御旗のもと、あまりにも彼らは罵倒をし過ぎた。いずれの人物もネット上のハンドルネームを使って罵倒をしていたのだが、いざ現実世界とそこをリンクされるとネトウヨからの抗議も殺到し業務妨害をされる以上、もはや上司からすれば「困った部下」ということになる。野間のようなフリーランスはさておき、失う立場のあるサラリーマンがのめり込んで先鋭化するのは危険である。「レイシズムを抑えるには乱暴な言葉も辞さない」という野間の考えは当初は有益だっただろう。だが、ネトウヨが弱体化し、もはや影響力も低下している中、あれほどの乱暴な言葉は必要だったのか。あまつさえ、ネトウヨでも差別主義者でもなんでもない者に対しても、猛烈に汚い言葉で罵倒をしてくる。もはや反差別界隈は一般の支持は得にくい状況になっていた。そして、あれだけ称賛を続けていたメディアもリンチ事件もあったせいか、彼らのことはスルーするようになっていった。

 キャンディーズの身バレ騒動の後、2015年末のしばき隊をめぐる動きとしては、12月27日の「ろくでなし子オフ会」がある。11月のぱよぱよちーん騒動を経てツイッターでやり取りをしたろくでなし子と野間が飲み会をすることになったのだ。公開討論実況中継も事前に決められた。これらのやり取りの中、野間は終始攻撃的で、ろくでなし子は「野間っち」と呼び、呑気な対応をしていた。そんな状況下で野間を誘ったわけだが、野間は渋々ながら了承。参加者も公で募ることとなったのだが、「ろくでなし子の弟子」を自称する高島章弁護士の参加が決定。他にも「ネット実況少年」「ドローン少年」として知られるノエルも参加。そして現在「しばき隊評論家」を名乗る愛媛の自動車販売会社社長・合田夏樹も参加した。合田は現在は田山たかしに次ぐ「しばき隊ウォッチャー」のような存在になっているが、当時は無名の存在だった。新宿の居酒屋に十数名が訪れ、野間も約1時間半遅れで登場。反差別界隈からは男組・高橋直輝ともう一人が来た。野間は到着してすぐ、ノエルの実況が不快だったのかカメラをはたき、ノートPCを閉じさせたという。

 この飲み会に参加したろくでなし子の担当弁護士である山口貴士はツイッターでこう振り返っている。「一次会お開き。野間さん、ついに議論に応ぜず。逃げたと言われないためだけに来たとしか思えません」「野間さんは、高島弁護士やろくでなし子の相手は避け、他の女性参加者相手には饒舌」。そして、野間は解散後ツイッターで「ろくでなし子の飲み会行ったけど、来てるやつ全員きもいやつだった……。」と感想を述べた。なお、山口弁護士は、森友学園・籠池泰典前理事長が証人喚問に登場した際の弁護士である。

 余談になるが、2016年10月、ろくでなし子は警視庁による逮捕をきっかけに、アイルランドのロックバンド・ウォーターボーイズのボーカルであるマイク・スコットから関心を持たれ、出会った。そしてこの2人は結婚するに至ったのだ。ろくでなし子は「仲人は警視庁」と語っている。私も2人の結婚パーティに参加したが、スコットは新曲『Payo Payo Chin(ぱよぱよちーん)』を披露した。参加者に配られたCDにもこの曲は収録されている。スコットによるとこの曲は「愛する2人の朝の挨拶を歌った曲」ということで、ろくでなし子が「差別主義者!」と糾弾されたような意味合いの意図は込めていないという。(続く)

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