その前後の約1年、彼女がストマ(人工肛門)を装着していたことを昨年2月放送の『徹子の部屋』(同)で告白したのである。それは、まさに『旅の香り』が放送されていた頃。だが装着当時、それを知っていたのはごくわずかなスタッフだけだった。
旅番組ということで、野際さんや中井には、温泉宿で入浴してほしいという演出側のリクエストが度々あったのだが、「中井さんは『お風呂NG』」…。野際さんを始め、往年の女優さんでも、すんなり入ってくださる方がいらっしゃるのに、「どうして中井さんだけ入らないの?」と事情を聞かされていないスタッフは首を傾げていたものだ。もちろん視聴者の皆さんにも、そうした疑問を唱える方は多かったと思われる。
そんななか、野際さんは全てを承知したうえ、中井を守るかのように、必要とあれば、進んでお風呂に入ってくださった。もちろん、後輩の中井美穂の“事情”には一切触れず、口外もせず、番組中、ずっと彼女を守り抜いたのだ。
なんにでも本当にお詳しい方だったが、ロケ先で、ちょっとでも疑問に思うことがあると、あらゆる手段を用いて調べあげた野際さん。
『旅の香り 時の遊びSP』で、娘で女優の真瀬樹里と海外ロケに出てくれたときも、「こういう景色を眺めていると、職業病で、あのドラマのロケに使えるんじゃないか…などと考えてしまう」と娘に伝え、ご自分の性分を少し諦めたような表情で説明した。
知的な女子アナの走りで、語学も堪能で、さらに留学経験まである野際さんは、もしも女優にならなくても、見聞きしたものをさまざま関連付けたり、広げたりして「職業病で…」と、おっしゃりながら、別のキャリアを重ねられたのではないだろうか。
それでいて、サービス精神旺盛で、チャーミングで、ユーモアにも溢れた、誰にも似ていない美人女優が野際陽子さん。16日に急きょオンエアされた『徹子の部屋』追悼番組では、その時代、時代によって、流行りのファッションに身を包み、ヘアメイクもその都度、変えて出演された野際陽子さんの美しすぎる過去映像が流され、その迫力の美しさに改めて息を呑んだ。
恐れ多いことだが、我々『旅の香り』スタッフはみな、野際さんのことを「ノギー」と呼ばせていただいていた。そしてテレビ局では、ドラマ班のみならず、情報班やバラエティー班にも野際陽子さんを尊敬したり目標にしていたりした女性スタッフが数多く居たものだ。私もその一人である。合掌。