2. だんだん怖くなる人 = 吉岡真紀子
謎の死を遂げた吉岡圭吾の母・真紀子(仲間由紀恵)の怖さは、尚子とはまた質の違ったものです。最初は、イジメに遭った息子が自殺したという「被害者の息子の母」、つまり悲劇的人物として登場したのですが、次第に真紀子の不可解な行動が明るみに。
「自殺の原因は学校にある」とばかりに攻撃するモンスターペアレントぶり。実は圭吾の死後になりすましメールを送っていた、という事実。さらに、息子の部屋を盗聴していたことが暴露されていく。息子を支配していた毒親ぶりや精神的虐待行為が次第に判明してくるのです。
そう、一見すると「良い親」が実は「怖い親」だったという展開はある意味日常的で、それがまた怖い。
3. 突如、怖くなる人 = 本庄和彦
「突如、怖くなる人」とは、日向の婚約者・本庄和彦(工藤阿須加)。和彦を演じている工藤さんは、青春という言葉が似合うイケメン。爽やかなスポーツマンタイプで、決して「怖い人」ジャンルではなかったはず。しかしそれが、今回のドラマでガラリと変わました。
日向が「両親に愛されて育ってきたカズには私の気持ちはわからないよ」「お願いだから、もう私とあの人の間に立とうとか考えないで」と恋人の和彦に語った。まさにその瞬間です。和彦の手がコーヒーカップに伸び、宙を飛んで割れる。日向の髪の毛をつかみ、「親を悪く言うな!」と恫喝。
大きく剥いた目は狂気の色が浮かび、まさに鬼の形相。それまで穏やかだった和彦の、突然の豹変。あの工藤くんがまさか。恋人にむかってDV。それも「演技している」といったヤワな感じではなくヤバイ感じ。目がいってる。ヒヤリとする。予想外の展開に、驚愕した視聴者も多いのではないでしょうか。
もちろん、それは役者としての力量がある証し。予想を裏切るような人物になりきれるのですから。工藤さんの役にかける強い想いもひしひしと伝わってくる。今後も、違った姿を見せてくれるのではないかと期待も膨らみます。和彦のこの暴発は、実は兄のDVに起因していることがストーリーの中で示唆されました。この先どうなるのかが、怖い。
3人は3人とも悪人ではない。だから怖いのです。「あなたのため」と言いながら、相手を縛ろうとする。自分を守りたくて、他人をつぶしてしまう。
残念なことに『明日の約束』は「暗い」「重い」という感想もあり視聴率もぱっとしないドラマなどと言われていますが、じっくり腰を据えて見ている視聴者も多いはず。なぜなら一つ一つの人間の感情の起伏をおざなりにせず向き合い、丁寧に、そして繊細に描き出そうとしているから。犯人は誰かという謎解き以上に、人間の不可思議さ、深さ、怖さ、強さといったものに迫ろうとしているからです。
明るくゆったりとした平凡なメロディが通奏低音のように流れ、そこに突然顔をのぞかせる暴力。それが私たちのいわば日常風景だということを、このドラマは伝えています。同時に、暴力の支配から脱却していく強さも、現実に存在していることを。