もちろん人気作品を背負うだけの演技力、リーダーとしての存在感、信頼される人間味などいろいろある。が、特に『日曜劇場』の場合は、声量と肺活量も大事である。なにしろ、この枠は音楽にも力が入り、見せ場になるとドラマチックな音楽が場面を盛り上げる。『陸王』でもLittle Glee Monsterが歌う『Jupiter』や『糸』(作詞、作曲:中島みゆき)が鳴り響くのである。
主役はまず、その音楽に負けない声量が必須だ。大ヒットした『半沢直樹』の堺雅人もかの名セリフ「倍返しだ!」をここ一番のキレのある声で発し『下町ロケット』の阿部寛も額に汗しつつ「正義は我にありだ!」と言葉をぶつけていた。そして満を持して登場したのが、芸能界の肺活量王と呼びたい役所広司である。
毎回、「いつかは必ず勝つ」「みんなのことは絶対オレが守る」などと熱い言葉を投げかけてきた宮沢社長。さすがにこの言葉のパワーに対抗できる俳優は少ない。唯一、「あたしは嫌だよ!」と社長にきっぱり言い切れるのは、こはぜ屋のベテラン職人役で演技経験のない阿川佐和子のみ。阿川と言えば、ベストセラー『聴く力』で知られる。もっぱら聴く側かと思ったら、しゃべる側でもすごかった。そんな中、もうひとりの「肺活量男」が登場。いつでもどこでも腹式呼吸で元気いっぱいの松岡修造だ。
松岡は開発資金のない「こはぜ屋」を3億円で買収して子会社にと持ち掛ける新進企業の社長役。明るくて押しが強くてやり手ムード満点だが、「百年ののれん」などに興味はないドライな男で、結局、宮沢とぶつかることに。その言い合いは、まさに肺活量対決。とどめは役所の「バカにしないでくれ!!」だった。
なんだかすごいものを見たな~と思う。見てるこっちもひとっ走りしたようなハイカロリードラマ。最終回では、こはぜ屋が応援する日本のエース級陸上選手茂木(竹内涼真)がマラソンで陸王を履いて勝利するのかが見どころとなる。
最終回予告編で宮沢社長は、「ここが勝負どころだ!!」と空気が震えるセリフを放っている(それだけに「宝くじ」CMのサムライ姿で「あんたがたどこそさ」を小さな声で歌う役所広司に笑える)。2017年を締めくくるのは、役所広司のラスト大声量…それでは、みなさんもご一緒に、大きな声で「望むところだ!!」