しかし、甲子園でのブレイクによって吉田の状況が一変することを中泉は危惧していた。
「周りからいろいろ言われますよね。それによって、本人の気持ちは揺れるかもしれない。それが怖い」
中泉の言う「いろいろ」とは、無論、プロへの誘いである。
◆「悪い大人のちょっかい」
甲子園での吉田は、投手としての様々な“顔”を見せた。万全のコンディションでマウンドに上がった1、2回戦は、打者によって直球のギアを入れ替え、相手を力でねじ伏せる“剛”の投球術。
3回戦の横浜戦では、新たな引き出しを開け、それまで投げていなかったスプリットを多投。逆転した直後の9回表、この日の161球目には自己最速に並ぶ150キロのストレートを投げ込むタフネスぶりだった。
連投となった準々決勝・近江戦や、準決勝・日大三戦では、打たせて取る“柔”の省エネ投法で、アウトを重ねた。強打の日大三打線を7奪三振・1失点に抑えた吉田は、「今日の試合が理想のピッチングでした」と振り返った。
自身のコンディションや相手打者の能力によって、ギアを上げ下げするクレバーな投球術に加え、バント処理や牽制の巧さもまた、スカウトが「即戦力に近い逸材」と太鼓判を押したくなる理由だろう。