韓国に関しても同じで、私が大学生だった頃は「韓国に旅行してきた」なんてぜったいに言えませんでした。それは韓国が貧しくて、日本人の男が妓生(キーセン)を買うために行くところだったからです。
中川:1991年、エイズ予防団体のポスターがありましたよね。目をパスポートで隠す背広姿の男性がいて、「いってらっしゃい エイズに気をつけて」というのが。つまり、海外で買春をする場合は性病に気をつけようと。あの時代ですか?
橘:それよりは少し前ですね。『深夜特急』で沢木耕太郎さんがバックパッカー旅行を香港から始めたのは、韓国からスタートできなかったからではないでしょうか。それは時代背景としてすごくよく分かる。隣国なんだから韓国から旅を始めたっていいわけですが、あの当時、自分探しの旅で韓国には行けなかったんです。
そんなステレオタイプを変えたのが、関川夏央さんが1984年に書いた『ソウルの練習問題』で、「韓国だって普通に旅できるんだよ」というのがものすごい衝撃だった。いまでは信じられないでしょうが、あれではじめて「韓国に行ってもいいんだ」と思いました。
その韓国も驚異的な経済成長を達成して、いまでは1人当たりGDPで日本に並ぼうとしています。嫌韓・反中の背景にあるのは、「日本はアジアで唯一の先進国」というプライドをずたずたにされたことでしょう。慰安婦や徴用工など歴史問題の影響はもちろん大きいのですが、2000年代初頭の『冬のソナタ』などの韓流ブームで、日本の女の子が韓国の男性に夢中になったことへの嫉妬心もありそうです。でもそれを認めるのは悔しいから、いろんな理屈をつけて韓国叩きをやっているのではないでしょうか。
中川:以前、私が書いた原稿で、海外では日本人はもはや上客とみなされておらず、中国人と韓国人の方が客引きから声をかけられている、という一言を入れたら、ネットで猛烈に叩かれたんですよ。やっぱり変なコンプレックスがあるんですよね。
橘:白人に対するコンプレックスと、アジア人に対する優越感というのが日本人のアイデンティティの核なんでしょう。これがネトウヨというか、嫌韓反中ブームの本質かなと思います。