『Heaven?~ご苦楽レストラン~』主演の石原さとみは32歳
さらに、安定した成果を出すための戦略として、アラサー女優の主演作は、原作を大胆に脚色。アラフィフ俳優の主演作は、原作に忠実な制作姿勢を打ち出しています。
『監察医 朝顔』の原作でヒロインの母が亡くなったのは阪神大震災でしたが、ドラマでは「東日本大震災で行方不明」という設定に変更。『偽装不倫』の原作はヒロインの相手役が韓国人で旅先も韓国でしたが、ドラマでは「日本人で旅先は福岡」という設定に変わっています。『Heaven?~ご苦楽レストラン~』『ルパンの娘』は、原作のイメージよりもコメディ路線に振り切るなど、「アラサー女優には、原作にしばられず伸び伸びと演じてもらおう」という姿勢が見えます。
一方、『ノーサイド・ゲーム』『リーガル・ハート ~いのちの再建弁護士~』『サイン ―法医学者 柚木貴志の事件―』『ボイス 110緊急指令室』は、「アラフィフ男優には、原作のイメージを大切にして演じてもらおう」という姿勢。ベテランは演技の計算が立ちやすく、原作ファンからの批判があがりにくいため、このような姿勢になりやすいようです。
ともあれ、ここまでキャスティングの方針が重なるのは、各局のマーケティング感覚が似ているからに他なりません。視聴者にとって「安心して見られる」のは良いことではありますが、「思い切ったトライも見たい」と思っている人も少なくないでしょう。
数年前まで、「視聴率が獲りにくい夏は、ダメ元で思い切った抜てきをするチャンス」と言われていました。それだけに、今夏のプライムタイムで放送されている新作ドラマに「初主演が一人もいない」という現実に一抹の寂しさを感じてしまいます。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。