梶原と中田は、動画の再生回数を増やすために自らをYouTuber仕様にチューンアップしている。テンションの高い喋り方を心がけ、派手なサムネも用意。テレビよりも元気である。比べて、小沢は話し相手となるディレクターに「オレ、楽屋のまんまだよね」と語りかけるほどの自然体。YouTuber的な意識の高さもこれまた全くない。
高校生の頃、僕はTBSラジオで深夜3時から放送されていたスピードワゴンの番組『キャラメル on the beach』を愛聴していた。そのせいか、僕の小沢のイメージは夜の男。テレビに出演時は奇妙な言動をイジられる役に徹しているが、ラジオでは知的で無頼な一面が漏れていた。麻雀、野球、小説、漫画、音楽、映画、ゲームと様々なジャンルに精通。
相方の井戸田潤が「小沢さんって、飯食いながら麻雀ゲームやって、週刊ベースボールを読んで、さらに漫画も読むもんね~」と話したことを覚えている。勉強ではなくサブカルチャーから知識を獲得してきた側面に惹かれる。雀荘、酒、煙草、小沢には高校生男子が夢中になる匂いがあった。
小沢は自分が得意としないジャンルの話にも強い。「青春パンクって言葉が苦手。頭痛が痛いと言っているようなものだよね(これは得意なジャンルな話だけど)」と物事の本質を突くことに長ける。麻雀仲間ホリエモンは「(頭の良さに)学歴とか全然関係ない。小沢さんは中卒だけどめちゃくちゃ頭いいですよ」と高評価。僕が地頭の良さを初めて感じたタレントは小沢かもしれない。
それから16年の月日が経ち、YouTubeに登場した小沢。動画でやっていることいえば、高校生男子の昼休み。自分が理想とするアーティストが揃う夏フェスの妄想やプロ野球の順位予想、目隠しをした状態でタバコの銘柄を当てる「利きタバコ」なんてことも。
とどのつまり、暇つぶしである。
僕が高校時代に聞いた29歳の小沢と現在YouTubeで観ている45歳の小沢に変化なし。どこまでいっても小沢は小沢だった。いい意味でも悪い意味でもキザである。独身生活を謳歌し、1日3箱タバコを吸い、週5日雀荘に顔を出す生活を保つ。人生の主役を1mmでも他人に譲ることはしない。
梅雨の雨音を慈しみ、初夏の香りに青春を感じ、冬の白い息とタバコの煙が混じり合う光景をに目を細める。Tシャツの首はパンクロック仕様にするためにハサミで切り、甲本ヒロトと真島昌利に憧れる。小沢は自分が求める小沢役を演じ続けている。ゆえに小沢の言動は芝居じみており、キザに映る。
小沢の動画は視聴者ではなく、自身が満足する内容だ。勝手気ままに好きなことばかり語る。ちまたでバズっている動画とは正反対、画面の向こうにいる視聴者の注意を引くためのオーバーリアクションはしない。「はい! ●●です! 今日は●●をしてみました!」と定番のフレーズを吐くこともない。どこまでいっても自然体の小沢さんを演じる小沢、ポエムのような言葉をつむぎ、たっぷりと間をとる。この静かな進行がアラサー世代にはちょうどいい。
化学調味料がない素朴な動画の味わいは、逆に新鮮で。「そもそもネットに動画を公開するって元来こんなことなのだろう」と僕は思った。せわしない動画にはマンネリ、そんな方にオススメしたい。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)