「だからね、本当の暴力団なら事前にわかるが、半グレだったら、それが反社かどうかなんて一般の人にはわからない。海に行けば今時、入れ墨をしている人はうんざりするほどいる。入れ墨が見えたら全部、反社にするかって。そんなことしたら人権問題だ。だいたい、ヘタに前科を照会したら人権問題になる」
「吉本はこの問題を甘く見たね。根本的な問題は彼らがギャラをもらっていたか、もらっていなかったかだけで、本来こんなに騒ぐことではなかったのに。吉本も芸人も、その時は反社だと知りませんでした、と謝れば済むことだった。まあ、その前に、オレオレをやっていると聞いていたなら話は別だけどね」
暴力団幹部はそう断言した。
ところで、暴力団はどうやって半グレの情報を入手しているのか?
「そこはそれなりにルートは、いろいろあるからね。警察がわかるのはパクってからだ。任意で聴取を受けたとか、逮捕歴があるとか。事件を起こした事務所に名簿があって、そこに載っていたとか。問題のある場所や会社で写真を撮った時、そこに写っていたとか。あの連中、不動産屋、飲食にエステと、抜け道になる会社をあれこれ作るからね。本当の暴力団の方が反社かどうか見分けやすい」
本当の暴力団という言葉が出たが、公安委員会から指定された者は指定暴力団の構成員となる。指定されていない者は暴力団と認定されず、暴対法は適用されない。だが周辺者または指定外の暴力団になるのだと、企業などに対策をアドバイスしている元刑事は言う。
では、警察はどのようにして情報を収集するのか?
「過去の処分歴や組織の出入り、組関係者との交際、バッジ、代紋、名刺、取り調べの際の供述、風評、関係者と一緒に撮った写真、捜索の時にその事務所や部屋にいたとか、携帯に登録されていたとか」
十数年前になるが、警察が作成した暴力団や右翼団体構成員のリストを見たことがある。「人定」が詳しく書かれた分厚い物だったが、その後、暴対法などができ、地下に潜り、フロント企業が増え、暴力団の情報を取るのが難しくなったと聞く。だが元刑事は「特にそんなことはない」と言う。
ちなみに「人定」とは人物特定のことで、住所、氏名、年齢、生年月日、職業、電話番号などを明らかにして、身元を確認することである。
では一般人は相手が反社かどうか、どうやって見抜けばいいのだろうか?
「警察OBでもあっても、前科や暴力団の照会はできないのが現状。昔なら聞けたものが、今は教えた側が情報漏えいになってしまうため、こちらからも聞けない。だから大手の企業は各々、報道された被疑者や被疑会社名、関係者の人定についてデータ化して活用している」
「事件絡みであれば警察に相談できるが、その場合でも“何組で反社です”とはっきり回答してくれない。奥歯に物が挟まったような言い方などから、こちらで判断するしかない」
吉本は警察や暴追センター(暴力追放運動推進センター)に相談していると会見で話していたが。
「東京都には暴追都民センターがあり、“不当要求”や“暴力団絡みの民事相談”などの相談ができるが、ここでもはっきりわからない。相手が暴力団と名乗っても、本当に暴力団かどうか判断できない。名刺を出されれば、そう判断してもよいだろうが、結局自分の判断でしかない」
元刑事は困ったように表情をゆがめた。
「結果、一般の人が、相手が反社かどうかはっきりと確認することはできないだろう」
意図せずとも反社との接点ができることもある。だがそれを見分けるのは難しいというのが現実のようだ。