それに対し、在来線の騒音を抑制する指針が発表されたのは平成7(1995)年。東京のガード下の騒音は100dBを超えると言われており、前述の基準値を大幅に超えているのに、いわば“先に作ったもの勝ち”で、法的な問題はない。そういうわけで、在来線は線路のガタンゴトンという音とモーターの唸るありのままの音を毎日私たちに聞かせてくれる。
では、新幹線はどんな音なのか。都心の電車などより速く、高性能なのだから非常にうるさいのではないか。実際に田端の新幹線線路の近くまで行って聞いてみた(この場所は、今夏公開の映画『天気の子』のラストシーンで主人公の穂高が陽菜と再会する場所である)。
──ほとんど無音だ。山手線も近くを通っているので聞き比べてみるとよくわかる。新幹線は市街地を走る在来線(その場所では山手線)よりはるかに速く、(編成としては)重いのになぜ静かなのだろうか。
理由を一言でいえば、政府による規制の賜物である。新幹線は騒音規制が政府によって定められており、厳格に守られているのだ。特に田端周辺のような、近隣に住宅地のある地域では線路外での騒音が70dB以下になるように定められている。
数字だけを見ると、在来線の規制値(55~60dB以下)のほうが新幹線よりも厳しい。だが、70dB以下とはおおよそ自動車の車内やセミの鳴き声レベルであり、日常では存在してもほとんど気にされることがない音の大きさである。車両がどんな騒音を出していようと、防音壁などの地上設備でほとんど消しているため、線路の近くに来ても、新幹線の音はわからないのだ。
田端では新幹線の音はほぼ聞こえなかったが、もう少し近くで聞いた場合はどうだろう。今度は日暮里駅の北改札を出てすぐの陸橋に、場所を移してみる。ここは山手線、京浜東北線、東北線、高崎線、常磐線、東北新幹線を一度にまたぐ陸橋で、多くの種類の電車を見ることのできる有名なスポットである。ここで将来有望なチビっこ鉄道ファンたちに混ざって電車と新幹線の音を聞き比べてみよう。
まずは電車。もはや文字にするまでもない、聞きなれた音である。では新幹線はどうだろう。音はするが、在来線とは異なる、どうにも文字起こしに困る音なのである。