この大会の斎藤の球数に対して、新ルールを“適用”するとどうなるか。まず、日程と球数を整理してみる。
■2006年 第88回全国高等学校野球選手権大会
8月6日(1回戦)対鶴崎工(大分)/126球
8月12日(2回戦)対大阪桐蔭(大阪)/133球
8月16日(3回戦)対福井商業(福井)/136球
8月18日(準々決勝)対日大山形(山形)/144球
8月19日(準決勝)対鹿児島工業(鹿児島)/113球
8月20日(決勝)対駒大苫小牧(南北海道)/178球
8月21日(決勝再試合)対駒大苫小牧(南北海道)/118球
ここに「1週間で500球」の規定を当てはめてみると、3回戦の福井商業戦から3日後の準決勝・鹿児島工業戦までで計393球になる。となれば準決勝の翌日に行われる決勝では107球しかなげられなかったことになるし、決勝再試合も登板NG。「3連投禁止」の規定のほうに照らすと、当時は準々決勝翌日に休養日がなかったため、決勝のマウンドにも上がれなかったことになる。3回戦から決勝再試合までの5試合を6日間で消化した斎藤が、この期間で投じた球数は、689球にのぼる。
現行のスケジュールに近い、2018年夏の金足農業・吉田輝星(現・北海道日本ハム)のケースはどうだったか。
■2018年 第100回全国高等学校野球選手権大会
8月8日(1回戦)対鹿児島実業(鹿児島)/157球
8月14日(2回戦)対大垣日大(岐阜)/154球
8月17日(3回戦)対横浜(神奈川)/164球
8月18日(準々決勝)対近江(滋賀)/140球
8月20日(準決勝)対日大三(西東京)/134球
8月21日(決勝)対大阪桐蔭(大阪)/132球
すでに準々決勝翌日に休養日が設けられている。今夏からは準決勝の翌日も休養日となったので、雨天順延などによって日程が詰まった場合を除き、現行スケジュールでは「3連戦」は起こり得ない。ただ、やはり「1週間で500球」の制限には引っかかってくる。吉田は2回戦の大垣日大から準々決勝の近江戦までに5日間で計458球を投じており、2回戦から数えて7日目となる準決勝・日大三戦では42球しか投げられなかったことになる。実際には吉田は強力打線の日大三を9回1失点に抑えてチームを決勝に導き、「カナノウ旋風」は頂点に達した。
こうして改めて見ていくと、斎藤、吉田、さらには松坂大輔(現・中日)といった過去に甲子園を沸かせた怪物たちのような大エースは、新ルールのもとでは生まれ得ないことがわかるのだ。
高校野球は、大きな転換点を迎えた。