「当時、東京の治安を脅かしていたのは暴力団、来日外国人を中心とする犯罪組織、『怒羅権(ドラゴン)』など残留孤児によって結成された中国人マフィアグループ、薬物の密売グループなど。彼らはある時はこちらと結びつき、ある時は暴力団と手を組むという形で犯罪を行い、同国人だけでなく日本人をターゲットにし始めていました」
違法薬物でも来日外国人の摘発数が増加。当時、薬物での検挙人員の約60%が暴力団と外国人だった。
「イラン人や北朝鮮からの密輸から次第に中国人による密輸が中心になり、彼らは暴力団と互いに利用し合って密売し、日本人を相手に売りさばき始めた。暴力団は暴力団だけ、外国人は外国人だけを対象にした捜査に無理がきていたんです」
犯罪組織もボーダーレスになり、ダイバーシティが浸透。密輸や密売、詐欺などによって得た資金を隠そうとマネロンを企てる組織も多い。
「4課は暴力団のことはわかっても会計や銀行関係には疎く、5課も銃や薬物規制には詳しいが金融関係の法律には明るくない。そこを総合的、横断的に捜査する組織が必要でした」
警視庁の組対は課ごとに課長、理事官、管理官、係長、捜査員という構成で組織される。理事官は1人、管理官は数人。係長は班長とも呼ばれ、班には他にデスク主任の警部補がおり、その2人が班の仕事を統率している。
班には専門別に庶務班、会計班、資材管理班、各国捜査機関などと連携や協力を行う共助班などがあり、これらを第1管理官が統率。現場を捜査する実働班は課によって異なるが、多い課では20班以上になり、数人の管理官がこれらを統率。実働班の中は事件班、現場の状況の分析などを行う臨場班、犯人などに関する情報収集を行う情報班、鑑識や証拠の分析を行う科学班などに分かれている。課によって他にも専門の班が置かれ、班は班長ごとに捜査員が10名程度だ。
「だから組対は1人の逮捕にも多くの人員と時間がかけられる。そこからどれだけ供述を取り、裏付け証拠を固め、裏に潜む組織を壊滅させられるかなのです」
ここが組対5課とマトリの違いである。マトリは組対5課に比べ、現場の捜査官の絶対数が少ないため、違反者を逮捕はするが、それ以上深追いはしない傾向がある。だが組対5課にとってはそこからが正念場だ。逮捕者の供述などから、供給ルートや資金源、密売組織を突き止めるため“突き上げ”捜査が行われる。
その結果、ASKAの時は供給ルートの住吉会大昇會を摘発したが、清原の時は末端の売人の逮捕で捜査が終了。今回も組対5課では、沢尻被告の供述から入手ルートや密売組織の解明を全力で進めているはずだ。
有名人を逮捕するにしても、背後の組織にまで突っ込めるかどうか。組対5課の真価はそこにかかっている。