百田氏は安倍総理のリーダーシップを評価する

 これだけ重なれば、当然、3月の支持率は下がると思っていた人が、不支持派の中では多数だっただろう。だが、現実はこれだ。「分断」の向こう側からは見えない、支持の背景があったのだ。

 私には支持の背景が見えていなかったが、百田の言葉を聞く中で理解できたことがある。問題はファクトやエビデンスではないのだ。積み上がったエビデンスに基づいてのみ判断すれば、安倍政権の対応を批判した専門家、メディアに分があるのは間違いないだろう。

◆分断されているからこそ相手側からは見えてこないものがある

 では、なぜ根拠が見えにくい「決断」が影響力を持つのか。近年の科学研究を踏まえれば、「正しい事実」を突きつければ人は考えを変えるというのは幻想でしかないことがはっきりと示されている。

 イギリスの神経科学者、ターリ・シャーロットは『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』(白揚社、2019年)で、アメリカ大統領選の討論で交わされた印象的なシーンを記述している。トランプと、彼の対抗馬で小児神経外科医のベン・カーソンの討論だ。

 トランプは子供のワクチン接種と自閉症に関連があるという、有名な疑似科学を自説して展開した。それに対して、カーソンはいくつもの研究論文があり、トランプが主張しているような事実はないと反論した。

 そこでトランプは再反論する。「実例ならたくさんありますよ。私どもの従業員の話ですが、つい先日二歳の子が、二歳半の可愛らしい子供が、ワクチンを受けに行った一週間後に高熱を出しました。その後ひどく悪い病気になり、今では自閉症です」

 シャーロットはここで困惑する自分に気がつく。心理学者であり、二児の母親でもある彼女は、自ら論文をあたり、ワクチン接種と自閉症の間になんら関連がないことを知っている。トランプの偏見と直感だらけの発言であるにも関わらず、不安を掻き立てられてしまったという。

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