「実は親からも借りてます。借りてるというか、貰ってる状態ですね。私の給料だけじゃそりゃ無理ですよ」
栗城くんの年収は500万と業界的には良くもないが悪くもない。だからこそ課金に精を出せるわけだが、収入の範囲内で出来ないのであれば無茶過ぎる。
「給付金じゃ足りないけど、10万ぽっちでもあれば助かります。なのにうちの市は遅いったらありゃしない」
栗城くんは県のナンバースクールを出て東京の名門私立大学を卒業した。他所様の家庭の話でなんだが、親も自慢の息子がこれでは悲しむだう。
「そんな親にどこか甘えてる部分はありますね、末っ子なので甘やかされた部分もあるし、勉強が出来れば何も言われないですから」
大手出版社から中小の出版社まで、新卒で全落ちの栗城くんだったが、流れ流れて出版業界の片隅にいる。仕事は楽しいが、非正規であることに不満があるのでは。
「そりゃありますよ。同じ仕事して有期雇用なんですから。デジタルコミックはコロナのおかげで好調ですけど、来年の契約があるかどうか。退職金もありませんし。親会社とは雲泥の差です」
コロナによる自粛と家籠もりのおかげで国内外ともモバイル関連のメディアは好調だ。スマホのアプリ利用率は世界的にも2020年第1四半期は約234億ドル(約2.5兆円)の史上最高額を記録したが、そのうちGoogle Playで55%、アップストアでは65%がゲームだが、デジタルコミック編集者の栗城くんは自身もカモとして業界の景気に一役買っている。
「日野さんは知ってるでしょ、私が一度破綻してること」
私が心配するのはそれだ。栗城くんはかつてゲームではなくパチスロで自己破産している。当時在籍していた編プロでパチスロライターの仕事をした時にうっかりイカれてしまった。プロはそんなヘマはしないが、栗城くんはたまたま担当しただけでハマったのが運の尽きだった。私はパチスロにも行っているのではないかとも心配した。
「それはないです。そもそも近所のホールはやってませんし、あんな目に遭うのはもう勘弁ですから」
あのときも親に尻拭いをしてもらった栗城くん。パチスロ依存からは離脱したようだが、代わりにソシャゲで何百万円もぶっ込むとは。
「すぐハマるというか、極端なんです。でも高級ミニバンだって数百万はするわけで、車好きと同じと考えたら、ねえ?」