2004年、学習院女子中等科の入学式を前に写真に納まる秋篠宮妃紀子さまと眞子さま(時事通信フォト)
みんな「マコリンペン」が大好きだった
「まず清楚なセーラー服姿にやられたね、日本にやっと“リアルお姫様”が誕生したって」
信次さんの言う「セーラー服」とは2004年、眞子さまが学習院女子中等科にご入学された時のことだろう。当時の匿名掲示板ではその少し前、すでに学習院初等科の卒業式に向かわれる眞子さまの写真についてのスレッドで”マコリンペン”と呼ばれている。
「気品があって可憐だったよね。佳子さまもかわいかったけど、当時は眞子さまの凛とした雰囲気のほうがオタクには効いたんだろうね」
確かにあの時の報道写真に「やられた」当時のネット民は多かったに違いない。筆者が編集長をしていた雑誌の編集部にも眞子さまのことを熱く語る3歳年上の部下がいた。彼もまた、お絵かきチャットでマコリンペンを描いていた。匿名掲示板や画像掲示板には眞子さまへの愛が溢れていた。当時、常駐していたユーザーの大半もいまや中高年だろう。
「オタクにとって“お姫様”って特別だからさ、どんな作品でも人気はお姫様とかお嬢様なわけ。眞子さまはそういうメタファーとしても最高の素材だった。だってあんなに高貴な生まれの少女なんてありえない。それでいて美少女、みんな競って描いたね」
もちろん信次さんの言う「みんな」はあくまで彼のネット空間における仲間の話である。それでも、たくさんの“マコリンペン”が生まれたのは事実だ。電脳空間の”遺跡”と化したネットの片隅、「マコリンペン」で検索すれば当時のそんなイラストはいくらでも発掘できる。10代の初々しい眞子さまばかりが描かれたホームページだって発見できる。いずれも時は止まったままだ。
「まずセーラー服は必須だった。あとは日本刀と罵倒だね。罵倒といってもあくまで鼓舞する感じ。『ひれ伏せ愚民どもっ!』って曲も使われた」
スマホデビューの高齢者や当時を知らない若者には意味不明の話かもしれないが、なぜか眞子さまはセーラー服姿でときに日本刀を持ち、ときに連合艦隊の司令官となり、臣民たる日本国民を愚民と罵倒しながらも鼓舞する姫君として描かれ、GIFアニメやフラッシュ、黎明期の動画配信サービスで公開された。実際の眞子様がそういうことをしていたとか、そうあってほしいということではなく、彼らが想像する本物のお姫様なら、どうふるまうだろうかとイマジネーションを膨らませた創作だ。二次創作のようなものだと考えると分かりやすいだろうか。
二次創作、とくに実際に生きている人(その場合「ナマモノ」と呼ぶ)を題材とする行為に世間の目は厳しいが、当時は幾分おおらかだった。その対象が好きで仕方がない結果の創作で、ビジネスにつなげようという発想も薄かった。眞子さまに対しても当然、尊敬と愛しかなく、すべて信次さんのような眞子さまファンによるものであり、無償の行為だ。
「そうそう、金にもならないのによくやったよ。俺もそうだけど、みんな眞子さまというか、“マコリンペン”が大好きだった」