神戸山口組の井上邦雄組長も訪問
なにしろ聖地だから、歌舞伎町でのトラブルや関東一円の抗争事件のみならず、全国どこで事件が起きても歌舞伎町のヤクザマンションが騒がしくなる。
2015年8月、兵庫県神戸市に本部を置く山口組が分裂すると、私はヤクザマンションに住む知り合いに毎日電話をかけた。離脱し、神戸山口組を旗揚げした山健組の井上邦雄組長が周囲を巻き込み、自陣営の友好団体を増やそうと必ず上京してくる。ならば必ず歌舞伎町のヤクザマンションを訪問するだろうと推測した。予想は見事に的中した。
ヤクザマンションに入居していた数年間、殺人事件はなかったものの、発砲事件や爆弾騒ぎ、ガサ入れなどは毎月のようにあった。玄関や廊下で乱闘事件にも出くわしたし、上層階の事務所バルコニーから、睡眠薬で昏倒したヤクザも降ってきた。
記事の訂正を断ったことから、襲撃されたこともある。今回の事件と同じく、来客でドアを開けたら侵入されたのだ。幸い刺されなかったが、パソコンがぶち壊され、私の顔面もまた破壊された。被害届を出して大阪に逃亡している間に話が付いた。久しぶりにヤクザマンションに戻ると、仲のよかった稲川会の親分がお茶に呼んでくれ、黒光りする巨大な仏様の横でお祓いをしてくれた。その親分も私が退去した後、ヤクザマンションから飛び降りて死んでしまった。
何度も血に染まり、数多くの命を呑み込んできたヤクザマンション……今回のような事件が発生するたび、歌舞伎町の住人たちはこう囁く。
「ああ、またか。ヤクザマンションなら仕方ない」
この場所では事件が日常だ。歌舞伎町の裏側にある暴力のランドマークは、これからもしばらくの間、ヤクザの聖地として存在し続けるだろう。