17年前の震災でも家が全壊
甚大な被害が出ている輪島市でも、他の人を思いやる言葉が多く聞かれた。「私らは食べ物があるけど、孤立しているところが心配」と話す40代女性もいた。
実際には、復旧の見通しのない断水、数が少ない簡易トイレや、便と紙があふれて不衛生な公共トイレの問題、プライバシーのない避難所での長期の生活によるストレスなど問題は山積だが、「まだ救助されていない人もいる。自分は命が助かっただけでも」(40代女性)と、じっと耐え忍ぶ人が目立った。
輪島市の避難所でボランティア団体の炊き出しに、手を合わせてお辞儀していた同市内の50代男性に声をかけると、「感謝」の言葉を繰り返した。
「17年前の能登半島地震の時も家が全壊し、同じ場所に建て直した家も今回の地震で全壊しました。家族は全員無事でした。避難生活をしていますが、これからどうするかは家族と相談して決めます。炊き出しの温かい食事は本当に美味しかった。感謝しかありません」
“ニセ自衛官”が心配で「家から離れられない」
古くから「能登はやさしや土までも」という言葉がある。能登の人々の素朴で温かい人柄を表現している。被災地の避難所では、困っている人に声をかけたり手を貸したりと、被災者同士で助け合い、譲り合う光景もみられた。他県から炊き出しの支援に訪れたボランティア団体のスタッフは、「寒くないかと気遣ってくれたり、こちらのほうが元気をもらっている」と話す。
そんな能登の被災地に、迷彩服を着用した“ニセ自衛官”が出没し、目撃された穴水町では注意を喚起している。石川県警によると、被災地では窃盗や住居侵入の被害が相次いでおり、輪島市も「被災地泥棒」の被害が想定されるとして、警戒を呼びかけている。取材班が立ち寄った七尾市の避難所には「不審者の情報あり」と貼り紙が掲げられていた。地元住民が嘆く。
「こうしたニュースでますます、年老いた親はこの地を離れられなくなる。避難所での長期生活は高齢者にはきつい。金沢でもいいから、安全な地域に一時的にでも避難してほしいけど、家が心配で“ここを離れられない”って頑なに拒むんです。言い合いになって最後は大ゲンカになる(苦笑)。1泊だけホテルに泊まりに行こうと騙して連れてくるしかないかなと思っています」
大地震、大火災、津波、土砂崩れ、道路崩壊、大雪、大雨と、ありとあらゆる災害に見舞われている能登半島。金沢と輪島を行き来すると、緊急の復旧作業は全国中の官民の支援部隊が集結して少しずつ進んではいるものの、倒壊した家やビル、傾いた信号機、倒れかけた電柱、道路の隆起や亀裂など手つかずのままの場所が想像を絶するほど多いことに愕然とする。余震も続く。「天よ地よ、能登にやさしさを」と祈らずにはいられなかった。
取材・文/上田千春 撮影/太田真三
※週刊ポスト2024年1月26日号