平成二十一年、結婚五十年に際しての記者会見で天皇はこう語られている。
《「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」であるという(憲法の)規定に心を致しつつ、国民の期待にこたえられるよう願ってきました。象徴とはどうあるべきかということはいつも私の念頭を離れず、その望ましい在り方を求めて今日に至っています》
今上陛下は、天皇は政治を動かす立場にはなく、「伝統的に国民と苦楽を共にするという精神的立場に立っている」という、民生の安定を祈念する歴代の天皇の在り方を「象徴天皇」の姿として求められ、即位以来それを実践してこられた。
昭和天皇の意思を受け継がれ、皇后とともに先の大戦で犠牲となった人々を悼む、日本全国、硫黄島やサイパン島、そして昨年戦後七十年のパラオ、ペリリュー島への「慰霊の旅」を、また東日本大震災や阪神大震災などの災害で被害を受けた人々へのお見舞いの旅を、まさに「国民と苦楽を共にする」天皇としてなさってこられた。
避難所にいる被災者を前に、両陛下がひざをつき正座をして、時には抱きかかえるようにして話を聞き、一人ひとりに言葉をかける。これはまさに「象徴天皇」の御代においてはじめて実現できた、この国の長い皇室の歴史のなかで特筆すべきことである。
今上陛下は、自らにとっても皇室にとってもさまざまな制限と困難を負うことになった戦後という時代を生き、平成においてその御代に、「日本国民統合の象徴」としての「在り方」を明確に示されてきたのである。
【PROFILE】1957年東京都生まれ。中央大学文学部卒業。関東学院大学国際文化学部比較文化学科教授。鎌倉文学館館長。『川端康成 魔界の文学』(岩波書店刊)など著書多数。
※SAPIO2016年9月号