芸能

朝井リョウ氏 「次世代へバトンを渡す覚悟はできてます」

自分を脅かす作品を書きたいという朝井リョウ氏

 佐藤健(27才)、有村架純(23才)、二階堂ふみ(21才)、菅田将暉(23才)、岡田将生(27才)という主演級の若手実力俳優たちで、この秋に映画化される小説がある。就職活動を通して自分の“今”と向き合い、「何者」かを模索する5人の大学生を描いた『何者』(新潮社刊・ 朝井リョウ著)だ。

 この作品で初めて平成生まれの直木賞作家として世間に名を轟かせた小説家・朝井リョウ。就職活動、兼業作家生活を経て、昨年の春に2年働いた会社・東宝を辞め、執筆活動に専念するようになった彼の“今”との向き合い方とは――。

 小説家、朝井リョウ(27才)。早稲田大学在学中に文壇デビューを果たし、卒業後は戦後最年少の23才で直木賞を受賞。平成元年に生まれ、新世代の作家として華々しく脚光を浴びた朝井は天皇陛下が生前退位を示唆された今、何を思うのだろうか。

「“平成生まれの直木賞作家”とはいまだによく言われますし、ぼく自身、その肩書に甘えている部分もあるので怖いですね。でもそろそろ次の世代の小説家に若者枠のバトンを渡さないと、とも思っています」(朝井氏・以下「」内同)

 自分の立ち位置を冷静に見定め、市場分析を怠らない。

「ぼくは『あなたの居場所はいつ誰が崩すとも限らないよ』という気持ちを誰に対しても少なからず持っていて、自分が脅かされると考えなければ頑張れなかったりもする。人をいやがらせたいし、脅かしたい。そう思って小説を書いているし、将来家庭を持って幸福な暮らしを得ても、自分を脅かす作品をきちんと書いていきたいと思う」

 デビュー当時、とある作家から贈られた「自分が言いたいことではなく、誰にも言いたくないことを書くべき」という言葉を信条としている。『何者』(新潮社刊)では「誰にも指摘されたくないこと」を吐き出し、お腹を下しながら、書き上げた。

「『何者』では、キャラクターにぼく自身が説教をされているような気持ちで書きました。まだ精神的な体力があるうちに、自己否定する作品を書いておきたい。自己否定は歳を重ねるほど難しくなっていくと思うので」

 受賞から3年。10月には映画化を控え、今月末には『何者』のスピンオフ集となる新刊を上梓する。タイトルは『何様』(新潮社刊)。社会人になって感じた就活の先にある現実を見つめる。

「就職して会社員になると名刺をもらえて、自分の名前が印刷されていて、肩書もつく。その役割になったような気になるんですが、実際はその錯覚に裏切られ続ける日々だった。作家も同じ。子供の頃にイメージしていた作家には、自分は到底なれていません。もしかしたらある日突然、親になることも同じかもしれない。『何者』の次のステージは何だろうと考えてみた時、自分に対して“おまえ、何様だ”と思い続けることなのかなと思ったんです」

 彼は日常のあらゆるシーンで確認作業を行う。目に映り、肌で感じたものを素通りせずにガチッと掴んで、朝井リョウのフィルターを通して咀嚼する。密着中も、ラジオのゲストがキラキラした笑顔を見せただけで自分の表情を省みる徹底ぶり。

「極端な話、下着泥棒がいたとしたら『あの人はあれだけ執着があった。でも自分にはない』と、その執着心に憧れすら芽生える(笑い)。あれだけ本気で異性を追いかけたことがあるだろうか、と。常に往復運動で自己確認するクセがあるんです」

“そこ!?”とツッコミたくなる目線に人柄が垣間見える。平均的なものの見方をする最大公約数の人間と自己分析するが、その細かさとある種の強い執着が作品の個性に通じるのだろう。

 朝井は変化に敏感であろうとする。なぜなら、新しいものへの反応に本性が出ると考えるから。やはり、確認作業なのだ。

「元号が変わるときは国中が今まで味わったことのない空気になったと、聞いたことがあります。今の自分には想像できない空気感に好奇心があります」

 自身や社会の環境の変化に目をこらし、作品をアップデートしてきた。20代に別れを告げて時代も変わった時、彼はどう変化し、自己認識するのか。新章での創作が待ち遠しい。

撮影/田中智久

※女性セブン2016年9月1日号

関連記事

トピックス

大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
“進次郎劇場”で自民党への逆風は止まったか
《進次郎劇場で支持率反転》自民党内に高まる「衆参ダブル選挙をやれば勝てる」の声 自民党の参院選情勢調査では与党で61議席、過半数を12議席上回る予測
週刊ポスト
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談【第24回】現在70歳。自分は、人に何かを与えられる存在だったのか…これから私にできることはありますか?
週刊ポスト