◆「準優勝でもいいんじゃ」
期待が高まっていた最大の理由は、本場所直前に横綱・白鵬が10年ぶりの全休を決めたからだ。
白鵬との対戦成績は、稀勢の里の14勝43敗。今年の春、夏場所でも白鵬に敗れて初優勝のチャンスを逃している。その“天敵”が不在となれば俄然、稀勢の里に優勝のチャンスが回ってくると見られていた。
しかも、白鵬は休場を決めた際に、「(綱取りの)チャンスをものにしてもらいたい。今度は戦うのではなく、応援に回りたい」と稀勢の里のサポーター宣言までしているのだ。稀勢の里にとってあまりに都合のいい展開だらけであることに首を傾げる向きもある。
「白鵬が協会に提出した診断書には『左膝タナ障害、右足拇指伸筋損傷、ならびに右足関節炎で4週間の加療が必要』とあった。ですが、白鵬は8月の夏巡業にも全勤していますし、足腰に負担のかかる不知火型の土俵入りも問題なくこなしていた。稽古不足はあるのかもしれないが、傷んでいる様子はなく、秋場所に出場できないほどの状態にはまるで見えなかった。本当に謎ですよ」(後援会関係者)
さらに、協会の内規で「横綱昇進は大関が2場所連続優勝かそれに準じる成績をあげた場合」とされているにもかかわらず、稀勢の里の昇進のハードルはどんどん下がっていった。
「白鵬が休場しているだけでなく、横綱・鶴竜も休場明けの稽古不足で状態が悪く初日から2連敗した。本来、稀勢の里には“取りこぼしのない高いレベルでの優勝”が求められるはずですが、理事長や審判部は“白鵬不在は関係ない。優勝なら勝ち星は関係なく昇進”と場所前から繰り返していました」(担当記者)
過去の横綱昇進前3場所の成績を見ると白鵬は38勝、日馬富士38勝、鶴竜は37勝をあげている。
「稀勢の里は直近2場所で25勝ですから、今場所は13勝以上での初優勝といったあたりが最低条件になるはず。なのに、そんな声は協会内からは上がらず、むしろ初日の不甲斐ない黒星のフォローに必死になっていた。一体、どこまでハードルを下げるんだという気持ちです」(同前)
夏巡業後の8月30日の綱打ち行事では、休場を表明する前の白鵬がこんな言い方をしていた。
「(稀勢の里は)今年いっぱい、あと2場所とも準優勝だったら(横綱に)上げてもいいんじゃないの。5場所連続(準優勝)となると、10か月好調を維持できたことになる」
つまり、“一度も優勝したことのない横綱”まで許容するというのである。