◆治療を断った時点で末期になる
彼の説得を受け、ジャネットは3、4週間ほど悩み続けた。途中、外科医のアドバイスも幾度となく求めた。外科医が、「治療を受けなければ、あなたの余命は半年から1年です」と宣告すると、彼女は治療に舵をきった。
放射線治療は、2~3週間継続したが、血球計算値が下がり過ぎたため、ジャネットは2週間の休憩に入る。その後、さらに2~3週間の治療を継続し、ついには癌細胞を退治することに成功した。一時は大事な毛髪が失われはしたが、数か月後には元通りの姿を取り戻す。彼は言う。
「もし彼女に対し、誰も反対意見を述べなかったら、自殺幇助以外の何物でもない尊厳死法が彼女に適用され、尊い命が奪われていたことでしょう」
頭では分かっていた話だが、直接、実体験を医師側から聞かされると、これまでとはまた違った鼓動を感じる。もうひとつ、私が発見した点は、彼が「自殺幇助」という用語を躊躇せずに使ったことだった。アメリカの尊厳死を自殺幇助と言い切っているのだ。
うすうす気がついてはいたが、やはりアメリカで言う「尊厳死」「安楽死」とは、私が見てきた「自殺幇助」とほぼ同一のものであるらしい(*注1)。それを彼の口から、ついに確認したのだった。
【*注1/アメリカでは「安楽死や自殺幇助は違法」「尊厳死は合法」という認識が広まっている。だが、死に対して尊厳があるか否かの判断について、アメリカの医療関係者ですら、うまく説明できない現状を前号の当連載では伝えている】