「例えば、経験値にないことを要求された俳優たちが、泣いたり喚いたりしながら、死力を尽くしている『怒り』の壮絶な撮影現場を見ながら、僕は『無様で何が悪い』って、改めて思ったんです。

 恋愛なんて時間も感情も無駄に使うばかりですけど、僕らは無様でみっともないことを避け続けた結果、とんでもない下り坂を転がり落ちている気がしてならない。恋愛は気づいた時は手遅れの風邪みたいなもので、そんな不合理なものを本気でやるから人は美しいとも言える。そもそも恋愛ごときに悩む動物は良くも悪くも人間だけですから」

 藤代たちが出した答えやハルが手紙に託した思いも、感じ方は人それぞれ。なぜ人間だけが恋をするのかという究極の問いに関しても正解は書かれていないが、「何かしら断片が刺さって、気づくと自分の一部分として沈着しているのが、僕が思ういい物語やいい恋愛なので」と、結論より結果を出すヒットメーカーは言う。

【プロフィール】かわむら・げんき/1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝にて『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『怒り』『何者』等ヒット作を多数手がけ、公開中の『君の名は。』は興収160億円を突破。2010年、The Hollywood Reporter誌「Next Generation Asia」に選ばれ、2011年には藤本賞を受賞。2012年の初小説『世界から猫が消えたなら』は累計100万部を突破、続く『億男』もベストセラーに。180.4cm、73.8kg、A型。

■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光

※週刊ポスト2016年11月18日号

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