◆最後は純粋な境地に戻れるかどうか

 神場は言う。〈自分は人生で、二度、逃げた〉と。2度目は16年前だが、1度目は子供の頃、親友をイジメから救えなかったことで、彼の生い立ちから駐在時代や刑事になってからのあれこれを、読者は読むことになる。

 出色は雨久良の〈米泥棒〉事件だ。ダム建設の賛否に割れる村では双方が犯人説を流し、その子供が苛められてもいた。神場は執念の張込みで真犯人を逮捕し、村人をこう諭した。〈一番の被害者は、窃盗にあった家じゃない。村の子供たちだ〉〈大人たちの諍いで傷ついた子供の心は、ずっと治らないのかもしれないんだぞ〉

 また巡礼中に寄った喫茶店で常連客が当然のように預ける〈コーヒーチケット〉や巡礼者に対する〈お接待〉の風習など、人間の善意を前提とした古き佳き空気は、他の柚月作品にも共通する。

「確かに『孤狼の血』にもコーヒーチケットは出てきますが、そうか、古いんだ(笑い)。でも道を訊かれたら親切になさいと教わった昭和育ちの私はお接待文化を素敵だと思うし、人間を常に好きでいたい。

 米泥棒も本筋とは無関係ですが、神場が刑事である前にどんな人間かを書かないと、再生は描けなかった。駐在時代がゼロからの出発だとすれば、信用も財産も失う覚悟で過去と向き合う生き直しはマイナスからのスタート。でも人間、最後は元いた純粋な境地に戻れるかどうかなのかなって」

関連記事

トピックス

岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
今回のドラマは篠原涼子にとっても正念場だという(時事通信フォト)
【代表作が10年近く出ていない】篠原涼子、新ドラマ『イップス』の現場は和気藹々でも心中は…評価次第では今後のオファーに影響も
週刊ポスト
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
韓国2泊3日プチ整形&エステ旅をレポート
【韓国2泊3日プチ整形&エステ旅】54才主婦が体験「たるみ、しわ、ほうれい線」肌トラブルは解消されたのか
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン