物語は冒頭、夏目が抗がん剤による延命治療を勧めた30代女性の肺門部原発扁平上皮がん、ステージIVが、某教団の自然療法とやらで寛解し、それを認めた彼の名前が広告に使われた顛末から始まる。実はこの1件、夏目が見せられたのは彼女の〈双子〉の画像だったのだが、その種明かしを序盤早々に回した経緯が面白い。
「治るはずないがんが治る、さては双子だなって、ミステリー好きならピンと来るくらいベタですよね(笑い)。その先入観を長引かせてもよかったんですが、本筋はあくまでがんの消滅ですし、肝心の4人に双子はいませんと明言した上で、面白く読める話を目指しました」
この時、なぜがんは消えたのかという一事に囚われ、まんまと偽造の痕を見逃す夏目ワトソンに、〈密室トリックだと見せかけて実はアリバイトリックだった、みたいのがあるじゃない〉〈あれと似た感じなんだけど〉と絶妙のヒントを出す羽島ホームズ。
この2人に、夏目の妻〈紗希〉、大手生保の調査部門にいる友人〈森川〉、その部下の〈水嶋瑠璃子〉も加えた5人組が、本書では酒席も交えて推理を展開。本件はリビングニーズ特約を悪用した保険金詐欺の疑いもあり、生保にとっても死活問題なのだ。
その後、4件の活人には独自の〈オーダーメイド医療〉で実績を上げ、各界の実力者を多く集める〈湾岸医療センター〉が関与し、その理事長は夏目たちの元恩師〈西條〉であることが判明。だが10年前、大学を辞めて何をするのかと質す夏目に、〈医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったことをです〉と答えた西條が悪事に加担するとは思えない。