◆寮の桐蔭、通いの履正社
違ったやり方でPLを追いかけ、現在の高校球界を引っ張る大阪桐蔭と履正社では、生活や練習の環境が大きく異なる。全寮制の大阪桐蔭の選手が24時間、野球漬けの日々を送る一方、履正社には寮がない。授業が終わると全員でバスに乗り、40分かけて専用グラウンドに移動。帰宅に時間を取られる生徒もいるため、平日は練習を4時間で終え、グラウンドに残って自主練習することも難しい。
寮のある大阪桐蔭が遠方の選手を受け入れられる一方、「自宅から通いたい」と考えて履正社を選ぶ関西圏の生徒も出てくる。勧誘の際、岡田は家庭環境を確認するという。
「選手は練習後、自宅で食事をするわけですから、ちゃんと栄養ある食事を食べさせているのか。ややこしい家庭環境にないか。面談で確認し、その結果、お断りすることもあります」
対する西谷の選手勧誘は“粘り強さ”が有名だ。中学野球の現場に頻繁に足を運び、惚れ込んだ選手は最後まで熱心に口説く。
昨年夏、筆者は中学時代にU・15侍ジャパンのエースだった高校1年生を取材した。全国の強豪40校から声がかかったという逸材に、西谷は「4番1塁で考えている」と声を掛けたという。まるでプロのスカウトのような誘い文句だ。結局、エースとして甲子園に立つ夢を持っていたその選手は別の強豪校に進学した。
その話を西谷にぶつけた。
「少々、誤解があります。投手を諦めろと言ったわけじゃないんです。ただ、将来プロを目指すなら野手としての方が伸びしろがあると思い、投手をやりながら野手もやらないかと誘った。僕自身、投手としての力は横川や根尾が上だと思っていた。子どもに対して、嘘はつきたくないんです」
そう明かした西谷は、履正社について、「甲子園に出るには勝たなくてはならない相手。ただ、かつてPLに抱いたような感情はありません」とコメントした。
それでも、両校の対戦はどこか因縁めいている。昨年5月、春季大阪大会の決勝でぶつかった際は、履正社・岡田の母の通夜の日と重なった。
試合は履正社が勝利し、岡田は葬儀場に直行。棺には決勝でかぶった帽子を入れ、「夏、これをかぶって応援に来るんやで」と夏の甲子園出場を母に誓い、その約束を果たしている。
早実・清宮の存在もあり、例年以上に注目を集める選抜。優勝候補の筆頭格が大阪の2強なのは間違いない。同じ大阪の高校が甲子園でぶつかるのは選抜だけ。両校が全国の舞台を勝ち上がり、激突すれば空前の盛り上がりとなる。(文中敬称略)
※週刊ポスト2017年3月24・31日号