だが、すでにその最中、崩壊の芽は育っていた。〈PL教団の広告塔として、信者の拡大に大きく貢献した野球部だが、甲子園制覇を繰り返し、絶大な人気を誇るようになるにつれ(中略)教団という組織の中で、野球部だけが独立して力を持つようになった〉。教団は多額の予算を野球部に注ぎ、野球部員は一般学生とは別の特別な寮に住んだ。
野球部が教祖の保護下にあるうちはよかったが、1983年に徳近が鬼籍に入ると、次第に教団内で野球部に対する視線が厳しくなっていく。そして、2000年代に入って部内暴力事件が多発し、対外試合禁止処分を受け、監督が辞任する事態が繰り返されるようになった。かつての「広告塔」は教団内で〈いつしか“お荷物”という認識に変わった〉。支援は減っていった。
その背景には教団自体の衰退という事情もあった。最盛期に公称265万人とされた信者数は、現在公称90万人で、実数で数万人ではないかと見られている。また、具体的な内容は本書に譲るが、著者は教祖一族の取材に成功し、教団上層部における力関係の変化が野球部の扱いに暗い影を落としていることもスクープしている。
そうした経緯を経て、2013年の秋以降は、野球経験のない“素人”監督が部を率いた。最後の代となった2014年入学の部員はわずか12人で、怪我人が出ればチームを組むのもぎりぎりの人数だ。特待生は一人もおらず、体も強豪校の選手より明らかにひと回り小さい。全盛期には逆にPLの選手の体格が相手を威嚇していたことを思うと、この落差は実に切ない。