安倍官邸による「空気の研究」の端緒は、2009年の総選挙で野党に転落した自民党が立て直しのために取り組んだ情報分析会議だった。
メンバーは党報道局長の茂木敏充氏(現政調会長)をはじめ、世耕弘成氏(現経産相)、平井卓也氏(現IT戦略特命委員長)、加藤勝信氏(現一億総活躍相)など現在、安倍政権の中枢を担っている側近たちだ。
当時は民主党の蓮舫氏が「仕分けの女王」として脚光を浴び、新聞・テレビは民主党の記事一色。自民党は国民から見向きもされず、失意のどん底に沈んでいた。
自民党の情報戦略のブレーンを務め、政権奪回後までの4年間の取り組みを内部から描いた『情報参謀』の著者・小口日出彦氏が振り返る。
「野党になると新聞もテレビもとりあげてくれない。会議の最初に『自民党の露出はゼロです』と説明しました。大メディアが報じないからネットしかなかったのです。全員切羽詰まっていました。そこで自民に好意的な情報からネガティブな情報まで丹念に集めて直視してもらうところからスタートした。メンバーは情報戦略の重要性をよく理解していたから、徹底的に議論して情報を分析し、表現方法なども研究した」
安倍首相は2012年に政権復帰すると世耕氏、加藤氏を官房副長官として官邸に迎え、2013年参院選でネット選挙が解禁されると、情報分析会議で培ったノウハウをフルに発揮させる。とくに重視したのが不利な情報やネガティブ情報への反撃作戦。小口氏が著書で「毒矢を消す」と呼んでいるものだ。