国内

ネットの反差別運動の歴史とその実態【1/4】

トレンドワード1位を獲得した「奇妙な果実」とは?(ヤフーリアルタイム検索より)

 ここ何年も、外国人に対するヘイトスピーチがネット上に蔓延しており、重大な人権侵害となっている。となれば、反差別の運動も目立つようになるが、現在、ネット上で起こっている反差別運動の実態はどうなっているのか。これまでのネットを中心とした反差別運動の歴史をひもときつつ、「レイシストしばき隊」ら“反差別界隈”の動きと現状について、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏がレポートする(全4回中第1回・文中一部敬称略)。

 * * *
 2017年6月2日、奇妙なキーワードがヤフーリアルタイム検索のトレンドワード1位を獲得した。それは「奇妙な果実」である。これは、アメリカのソウル歌手・ビリー・ホリデイによる曲のタイトルだ(原題=Strange Fruit)。「奇妙な果実」とは、アメリカの差別主義者の白人によって木に吊るされて死んだ黒人のことを意味する。漫画『美味しんぼ』3巻でも登場したことで、知った人も多いだろう。ジャズバーでソウル・シンガー「サディ・フェイガン」が同曲を歌うが、客席の山岡士郎と栗田ゆう子はこうやり取りをする。

〈栗田:これは…何と言う歌なの?
山岡:「奇妙な果実」、白人に私刑(リンチ)を受けて、木に吊された黒人の死体のことだ………。白人に虐げられててきた黒人の悲しみが哀切極まりなく胸を打つ……〉

 今回の「奇妙な果実」のトレンド1位入りが一体なぜ起こったのかといえば、ツイッターユーザー・BuddyLeeが、ハッシュタグ「#安倍を吊るせ」に乗っかる形で「奇妙な果実にしちまおう」と書き込んだことにある。「安倍を吊るせ」のハッシュタグを使い始めたのは野間易通という有名な活動家であり、反原発の活動を経て「レイシストをしばき隊」(現C.R.A.C.)の中心メンバーとなった人物だ。しばき隊は東京・新大久保のコリアンタウンなどで「朝鮮人をガス室に送れ!」「良い韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」のように、排外的なデモをしていた在特会(在日特権を許さない市民の会)を中心としたネトウヨに対する「カウンター」として2013年2月9日に登場した。

 排外デモ参加者は、しばき隊が登場するまで「お散歩」と称し、デモ終了後に集団で街を練り歩き、韓国人や中国人が経営する商店で「看板が道に出てるだろ!」といった形で一見良識ある市民を装い恫喝を繰り返していたが、しばき隊はそれを阻止することを目的とした。その後、デモの際はしばき隊の分派も含め多数のカウンターが自発的に続々と参加し、人種差別主義者への抗議の声を各者各様の形であげた。その活動は当時リベラル系のメディアからは称賛され、「差別と対峙する立派な人」という扱いを受けていた。事実、彼らの当時の功績は大きなものがあるだろう。

 彼らは現在「野間界隈」や「しばき界隈」「反差別界隈」といった言われ方もされるが、野間という親分のツイッター上の号令、ないしはその時々のお仲間さんが醸し出す空気のもと、「レイシスト」「差別主義者」を糾弾し、反安倍政権を主張する声が一斉に広がっていくのが特徴である。もちろん野間とは関係のない者が多数だろうが、論調として野間的な意見が反差別界隈では共感される傾向にある。元々は反差別を掲げていたが、最近は「反安倍政権」も主張の軸となっている。主たる情報発信のツールはツイッターである。今回BuddyLeeもその号令に従った形だ。最近でも野間は「東京メトロの駅員を罵倒しろ」「書店で大声で騒げ」といった扇動をし、一斉にそのシンパたちが従ってきた。前者は北朝鮮がミサイル実験をした際に東京メトロが運転を見合わせたことに対して抗議せよ、ということである。後者は『韓国人に生まれなくて良かった』(元・駐韓国特命大使・武藤正敏著)という書籍発売にあたり、この本を平積みしているような店では大声で書店員を怒鳴っていい、という主張だ。つまり、「“ヘイト本”を売るような書店員は罵倒しろ」という扇動だ。

 前者は分かりにくいかもしれない。「なんで地下鉄の駅員と差別が関係あるの?」と思うことだろう。基本的に日本の左翼活動家は韓国・北朝鮮・中国に好意的で日本を叩く傾向にある。北朝鮮によるミサイル実験は「正当な実験」「危険ではない実験」であり、それにいちいちビビって地下鉄を止めてるんじゃねぇ! 政権及びマスコミの「北は怖いぞキャンペーン」にいちいち乗っかって東京メトロは北朝鮮の恐怖を煽るんじゃねぇ! てめぇら、官邸のことを「忖度」しやがったな、この野郎! よし、こうなったら東京メトロの駅員を罵倒するぞ! という何が何やら分からぬロジックの扇動をしたのである。とにかく「反安倍政権」「親韓中北」になるのであれば、何でも利用し、進軍ラッパを吹いてシンパたちを動かしていくのだ。あとは得意の「指先検索」により、次の糾弾相手を探していく。

 今回野間が「#安倍を吊るせ」に至った前段として、「前川さんにしろ詩織さんにしろ、ガツンと前に出てちゃんとレジストするやつがいるんだよ。全力でバックアップだよ。」というツイートがある。これを意訳すると「反安倍政権のために闘う前川喜平・文科省前事務次官と、安倍ベッタリジャーナリスト・山口敬之にレイプされたと顔出しで告発した詩織さんを(政権打倒のために)全力で応援しよう」ということになる。

 それに続くのが「#安倍を吊るせ」のツイートになるのだ。このツイートは他の文章は一切なく、ただ「#安倍を吊るせ」のハッシュタグだけが投稿された。これに呼応する形で、シンパたちが「#安倍を吊るせ」のハッシュタグを使い始め、BuddyLeeが一線を越える形で「奇妙な果実にしちまおう」=「安倍首相をリンチし、首にロープかけて木に吊るして絞首刑にしてしまおう」という扇動をしたのだ。

 普段から反レイシズムを標榜し、ネトウヨを含めた人種差別主義者を糾弾してきた「しばき界隈」がまさかの黒人差別を批判する曲名を出して安倍晋三首相の殺害扇動とも取れるツイートをしたことにより、完全に化けの皮が剥げた。その後BuddyLeeは押し寄せる批判に対して正当性を強弁し、罵倒を続けていたが、さすがに「奇妙な果実にしちまえ」はヤバ過ぎると理解したのだろう。謝罪をしたうえで、謹慎をすると宣言した(すぐに復活)。その謝罪文は以下のものである。

〈このシビアな時期においてした軽率なツイートをいくつか消去致しました。このツイートで不利益を与えてしまった皆様方にお詫びいたします。また、6時間ほど見知らぬホシュの方からのご意見を拝見致しましたが、どれも貴重なもので啓発されました。なおフォローリクエストを多数頂いておりますが、謹慎中のためご期待に添えず申し訳ありません。〉

 ここで「不利益を与えてしまった皆様方にお詫びいたします」とあるが、これは前川氏、詩織氏という安倍政権にダメージを与える可能性がある「神輿」がせっかく登場し、攻撃のチャンスだったのに自陣営が逆に叩かれる状況を作って謝罪していると解釈できる。本来謝罪すべき相手は安倍首相であり、黒人、そして故・ビリー・ホリデイ及び曲の関係者に対してであるにもかかわらずだ。その後、BuddyLeeはツイッターの運営によりIDを凍結された。

関連記事

トピックス

林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
「パー子さんがいきなりドアをドンドンと…」“命からがら逃げてきた”林家ペー&パー子夫妻の隣人が明かす“緊迫の火災現場”「パー子さんはペーさんと救急車で運ばれた」
NEWSポストセブン
豊昇龍
5連勝した豊昇龍の横綱土俵入りに異変 三つ揃いの化粧まわしで太刀持ち・平戸海だけ揃っていなかった 「ゲン担ぎの世界だけにその日の結果が心配だった」と関係者
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
NEWSポストセブン