元来、東芝の社風は「家族第一」だった。東芝を長く取材し、西田元社長に焦点を当てたルポルタージュ『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』(小学館・11月15日発売予定)を上梓するジャーナリストの児玉博氏が言う。
「そもそも東芝のルーツの1つは、白熱灯を製造していた『白熱舎』という会社。創業以来、一般家庭に明かりを灯すことを生業としていた東芝は、家庭的なイメージを大切にする企業でした」
多くの大企業は縁故入社を禁じたり、隠したりするが、東芝はオープンだ。
「幹部の息子や娘が入社することがとても多いんです。地方の工場でも2世どころか、『自分、〇〇の孫です』と胸を張る親子3代の社員もいます。必然的に顔なじみが多くなり、社内にはほんわかとしたムードが漂います」(児玉氏)
昔から総合電機メーカー3社を比較して、「野武士」の日立製作所、「殿様」の三菱電機、「お公家さん」の東芝と評される。
その名の通り、温厚でおっとりとした社員の多さが東芝の特徴だが、一方で上司の面倒見は極めてよかった。
「上司と部下が親子のような関係なんです。若さゆえ素行が悪く、酒場で荒れたり飲み代のツケをためるような不良社員に対しても、上司が身元引受人になって飲みの代金を支払う風土があった。部下を絶対に見捨てない姿勢が東芝のカルチャーだったのです」(児玉氏)
東芝グループの経営理念の筆頭に掲げられるのは、《人を大切にします》という文言。牧歌的な社風のもと、社員たちは自然と家族のような関係になっていった。
◆社員同士、社員の妻同士の密な関係
「昔の東芝は、社員同士は役職ではなく“さん”付けで呼び合いました。休日にはお花見など季節行事のほか、野球やラグビーなど社内のスポーツ部を従業員と家族でワイワイと観戦して、一体となって応援することも多かった。こうした場で出会って、社内結婚するカップルもたくさんいました」(50代の東芝社員)
社員と結婚した妻たちも当然その“家族”の中に入って密なつきあいをするようになる。