もう1つ背景として挙げられるのは、マネジメント側の思惑。
所属事務所やマネジャーは、若手俳優に「なるべく固定されたイメージをつけたくない」と思うものです。たとえば、「イケメン」「王子様」「いい人」「コメディアン」などの役が続くと見る側にそのイメージが浸透・定着しかねません。固定されたイメージは、オファーの幅を狭め、引いては仕事数の減少につながりやすいだけに、マネジメント側は「できれば全作とは真逆の役を選びたい」のです。
もちろん、「真逆の役を演じさせて演技力をつけさせたい」という親心もあるでしょうし、「カメレオン俳優と言ってもらいやすい状況を作ることで記事化され、知名度アップにつなげたい」という戦略も考えらえます。
最近では、個人のSNSでも「カメレオン俳優」と書かれるなど、フレーズそのものが一般化しつつあります。前作と真逆の役や異色の役を見ると「凄い」と絶賛しがちな一般の人々も、カメレオン俳優の大増殖に関与しているのではないでしょうか。
ただ、前述したように、俳優はカメレオンであることが普通であり、乱発されていることから、そのフレーズに辟易としている人が増えはじめているだけに、この流れは徐々にトーンダウンする気がしています。
昨年末に某映画監督と話したとき、「どこにでもいるような人を演じるほうが難しい」と言っていました。もしかしたら、どこにでもいるような人の役を微妙に演じ分けている人こそが、本当のカメレオン俳優なのかもしれません。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。