和歌とは、「この表現以外にない」と言葉が動かなくなるまで心を集中し、推敲を深めて詠むものだ。声に出して詠んだ時に心に響いてくる音の流れである「しらべ」と、言葉が持つ意味である「こころ」が交じり合い、31音の中に変化と感動が生まれる。
天皇の和歌の特色はまず、しらべにあらわれる。古代より宮廷では、将来の天子や后になる子女に、伝承の力ある和歌や古代歌謡を歌い聞かせ、若き貴人が内に秘めた「魂」に働きかけて、歌を詠む力が自発的に発現することを導いた。
内なる魂を充実して持つ者が物心ついた頃から和歌に親しみ、歌い続けることで、おのずから満ちた歌のしらべが生まれた。和歌の伝統の奥に伝わる力は、おのずから身につくものであり、まろやかであたたかな息ざしのようなものだ。残念ながら、このしらべを感じ取る力は、今、日本人から急速に失われている。
近代の天皇にも古代の神の言葉は伝統的に伝わる。明治天皇は生涯に十万首にものぼる和歌を詠まれた。文明開化ののち、日本の国力を伸ばそうという思いから、生活の模範、日本人の生きるべき指針を示す気持ちで歌を詠まれた。大正天皇は病身で在位は短かったが、抒情的で豊かな和歌を詠まれた。
最も人間的でのびやかな和歌を詠まれたのは昭和天皇である。戦前は「現人神」として感情をあらわす話し言葉の平易な語彙を持たなかった方が、戦後には、実に自在に和歌の中で思いを表現しておられる。