「分裂抗争中の山口組にかかわり得ることですから、警察当局は過敏に反応し、ロケ地の許可はなかなか下りなかったようです。映画が完成しても、上映する映画館の見通しもついていない」(同前)
スタジオを提供している東映に、配給も手がけるのかと聞いてみると、「弊社の配給ではない」(広報部)と説明した。井筒監督の所属事務所に聞くと、「現時点では何もお答えできません」と答えるのみだった。
映画公開に敏感なのは、後藤氏が所属していた六代目山口組だといわれる。
「すでに六代目側のなかでは、『除籍になった人間が勝手に極道映画を作って許されるのか』『除籍問題に触れないとしても現執行部への批判めいた描写があるかもしれない』といった批判や懸念がある。実際に旧後藤組の関係者が後藤氏に『公開は勘弁してもらえませんか』と相談したが、聞き入れてもらえなかったそうです。もちろん後藤氏本人はトラブルの火種になることは望んでいないと言っています」(後藤氏の知人)
後藤氏はなぜ映画にこだわるのか。ジャーナリストの溝口敦氏はこう分析する。
「田岡一雄・三代目組長の役を高倉健が演じた『山口組三代目』など、昔から映画の題材になることが大物組長のステータスでした。まして後藤元組長は映画との縁が深い。後藤元組長はもともと『北陸の帝王』と呼ばれた川内弘組長の子分でしたが、川内は自身をモデルとした映画『北陸代理戦争』の公開直後に殺されています。
また、ヤクザの民事介入暴力を描いた映画『ミンボーの女』の内容に怒った後藤組組員が伊丹十三監督を襲撃したこともあったし、引退直後には私費を投じて『BOX 袴田事件 命とは』という袴田事件に関する映画を作ってもいる。思い入れのある映画づくりを、除籍に追い込まれた自分の最後のやり残しだと考えているのではないか。後藤本人は、抗争に影響を与えるつもりはないはずです」