結婚会見で山里は自らの非モテについて「そんなモテてない」と話していた。この発言には主語が欠けている。正しくは「“売れっ子芸人のわりには”そんなモテてない」ということだ。
芸人はキャラを立たせるために、もともと持っているパーソナルな一面を拡大解釈する。それが山里にとっての非モテだった。つまり、南海キャンディーズの山里亮太は非モテだが、一人間の山里亮太は違う。結婚したのは後者であり、芸風と本人を同一視するから難儀となる。芸人・山里にとっての非モテは8割ぐらいか、一人間の山里にとって非モテは1割にも満たないのではないか(売れていない時代にも彼女はいた)。
また、山里の「そんなモテてない」には“自分が好きな人に”といった意味合いが含まれる。反射速度、語彙力、気づき、芸人としての能力がすこぶる高い山里を満足させる女性はそういない。もちろん、そのことは高貴な演技者である蒼井も同様。互いにワーカホリックであり、自分の創作活動に刺激をくれる相手を求める。心の機微の探求者である2人が籍を入れることは至極自然だ。
巷では山里のビジュアルについて色々と言われている。しかし、蒼井にとってはどうでもいい問題で。映画監督・山田洋次との対談で「ある時、若さの魔法が解けるんです。何も考えずにできていたことに、無理が生じるようになる。お芝居をしていて、もっと考えてやらないと。そうなってからが勝負」と語っていた。若さによって美しさや勢いが陰ることは経験済み、だから中身を鍛え続けてきた山里を好きになる。とどのつまり、お似合いの2人である。
「山里署長、おめでとう!」D.T.P一同より。
売れっ子芸人と多くの男性と浮名を流した魔性と呼ばれる女優との結婚。山里と蒼井は、かつての明石家さんまと大竹しのぶになぞられる。しかし、さんまが唯一つまらなかった時代と評されるのがこの時期。さんまは家庭を持ったことで、独身時代の十八番であったモテによる浮つき芸を封じられた。世間からは健全さを求められ、本人もリミッターをかけてしまう部分があったのだろう。
山里はさんまと真反対に位置する非モテの芸風だが、似たような危険が予想される。本人が負け犬の遠吠えというように、弱いというポジションから妬み嫉みをつのらせて批評することが難しくなる。蒼井と結婚した勝ち組芸人の山里が『山チャンネル』で夢見る男女を貶す行為はグロテスクに映るだろう(本人の意思関係なく)。
いかにせよ、結婚によって『山チャンネル』は次なるフェーズに移らなくてはならない。僕は批評の中で「ウチの嫁さんが……」と言うことを期待している。そもそも、2人を繋げたのは『テラスハウス』。番組で披露された山里の慧眼に蒼井は尊敬の念を抱いた。ゆえに『山チャンネル』で“蒼井優”の名を出すことに不自然さはない。逆に未婚時代と同じような妬み嫉みスタイルで批評を続けるのならば、僕は失望してしまいます、山里署長……。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)